consideration on the “soul name”_3
「つまりさ、宝珠と傀骸装ってのはさ――“鬼名”を持ってる人間の最低装備なんだよ」
龍輝丸はそう切り出した。しかし他の三人はこの説明ではピンとこない。
仁吉と泰伯は、そもそも自分の鬼名を知らないからであり、蒼天の場合は、“鬼名”を自覚した瞬間に、宝珠も鬼名解魂についても一気に認識してしまったために、それらの関係について正しく理解していなかったからである。
「ちょい昔にな、『鬼方士』って呼ばれてる悪の術師集団がいてな。こいつらはどうも数百年くらいずっと、“傀骸装”やら“宝珠”やらの研究をしてたらしいんだよ」
「数百年って……ということは、不八徳とかもそれくらい昔からいたってことか?」
泰伯が疑問を挟む。しかし龍煇丸はその、鬼方士たちから不八徳と八荒剣という単語を聞かされたことはないと言った。
「ま、いたとしておかしくはないであろうよ。むしろこういう、怪しげな対立的なものは古くからあるほうが、いかにも“それらしい”からの」
と評する蒼天の言葉に龍煇丸も同感だと頷く。
「んでまあ、そいつらは人工的に“鬼名”持ちの戦士を作るため、“傀骸装”と“宝珠”を再現するために色々と悪いことしてたんだよ」
「なんだよそれ、ウルトロイドか?」
「先輩、たぶんその例え伝わりませんよ」
仁吉が特撮に例えたのを泰伯が冷静にツッコむ。
「どっちかって言うとダークプリキュアだね。ハトキャのほうの」
「おぬしプリキュアとか見るのか?」
龍煇丸の例えに蒼天が、内容よりもその例えそのものに疑問を持った。龍煇丸は平然と頷く。
「俺、そいつらの実験体だったんだけどその中ではそれなりに優秀な部類でね。実験に強力すれば多少のワガママなら聞いてもらえてたんだ。そんで、娯楽がなくて暇って駄々こねたらどっかから古い東映系の特撮やらアニメとか持ってきてくれてね。空き時間はずっとそれ見てたんだよ」
「……さらりと重いこと言ったね?」
実験体だったという龍煇丸の過去を聞いて泰伯は沈鬱な顔をする。しかし龍煇丸は何とも思っていないので話を続けた。
「んでまあ、いきなり“鬼名”持ちを作るのはハードルが高い、みたいな結論になったらしいんだよ。何せ魂とかが関わってくるからな。だからその前段階として“宝珠”と“傀骸装”を再現しようってことになったらしい」
「ふむ、それはまた何故じゃ?」
「“鬼名”は魂に干渉しなきゃならないからレベルが高い。だけどあいつらは研究の結果、“鬼名”持ちはみんな“傀骸装”と“宝珠”を持ってるってことは分かってた。だから、まずガワから用意しようってことらしいぜ」
「やってること大体エボルトだな!?」
「先輩、ちょっと特撮系の例え禁止にしていいですか?」
仁吉の度重なる、泰伯にしか伝わらない例え話に泰伯が苦言を呈する。実際、蒼天と龍煇丸には何のことかさっぱり分からなかった。
「んで人為的に造られたのが俺ってこと。だから俺は“宝珠”と“傀骸装”はあるけど“鬼名”はねーよ」
「なるほど。しかしその……ガイファンシ、だっけ? その組織はなんで“鬼名”の戦士を作ろうとしてたんだい?」
泰伯のその疑問に龍煇丸は、さあ、と肩を竦める。
「さあね。親玉は確か、ガイクー先生とか呼ばれてたジジイだったけど、どうやら三代目とか四代目らしくてね。その組織の開祖の目的がそれだから目指してた、みたいな感じっぽかったよ」
「じゃあその開祖は何のためにそんなものを目指してたんだよ?」
回りくどいと感じた仁吉が声をいら立たせる。しかし龍輝丸はまたもや肩を竦めた。
「知らない。どうもあいつら、誰も本当のことは知らないっぽいんだよね。その開祖が何のために組織を作って、何を最終目標に研究してたのかとか分かってないんだよ」
「目的があり、その過程であったはずのことがいつしか目的となってしまう。よくある話じゃの」
蒼天は冷ややかに言う。そして心の中で、さながら不毛な戦争のように、とも思ったが、こちらは口に出すことはしなかった。
「ま、つーわけで俺はしょせんまがい物だけど、先輩たちは純度百パーセントの“鬼名”持ちなんだろ? なら教えてくれよ。ま、言われてピンとくるかどうかは知らねーけどな」
「え、なにおぬし? こんだけべらべら語っておいてそういうこと言うのか?」
これまでの話は何だったのかと蒼天は思った。
「だって中国史ってわけわかんねーもん。漢文なんか読めないし。確か何とかシリャクってのをね……ケンエンって奴が天下取るあたりまでは読んだぜ」
「序盤も序盤だよ、それ……」
泰伯は呆れたように言う。
「それが普通だと思うけどね。僕だって、自分のキメイとやらは知らないし、聞いても分からない気がするんだよ。当然、茨木と三国さんのもね」
仁吉は龍輝丸の態度が普通だというような言い方をした。そして言外に、興味がないとも告げている。
そう、仁吉はそんなことはどうでもいいのだ。自分のことも、他人のことも、その前世の名前が何であるかなど気にならないし、知ったところで何とも思わない。知らない作品のキャラクターについての説明を聞いているような気分になるだけだろう、というのが素直な感想である。
「ちょうどさっき、僕が特撮に例えたのを三国さんたちが分からなかったのと似たようなものさ」
と無関心で身も蓋もないことを言ったので、泰伯と蒼天はなんとなくこの話題を続けにくくなってしまった。とりわけ、自らの“鬼名”を自覚していて前世の記憶もそれなりにある蒼天にとっては、この流れで前世の素性を明かして、知らないとか、誰だいそれ、などと言われてしまうとそれなりに傷つく。
そして仁吉と龍輝丸の反応を見るとそうなるのが明らかなので、敢えて口にしようとは思えなかった。
「と、ところでリュウキマルよ。確か、おぬしの“鬼名”についての認識は余らと少し違うと言っておったの。それについて教えてもらってもよいかの?」
そして少し強引に話題を変えた。