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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue2 “*lac*s*i*h in my soul”
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BLACK StorM In THe blank_6

 そして――。

 泰伯の剣がフェイロンの体を袈裟懸けに斬り裂いた。

 剣がフェイロンに届く前、一瞬だけフェイロンが、まるで眠りこけたように意識を無くすのを泰伯は見た。

 理由はわからないがこれは好機である。


「『魂を(とか)し、流し、心火以て風を起こす。我が敵は眼前に居らず。絶ち斬るは虚空に在り』」


 無意識のままに口から溢れ出た言葉。

 その言葉が口火となって、泰伯の剣が黒い光の奔流を纏い始める。


「いっけぇぇぇぇッッッッ!!」


 黒い、天まで昇るほどの嵐を纏いながら、剣を思い切り振り下ろす。

 その一撃はフェイロンの両手の鉤爪を砕き、その体を真っ二つに斬り裂いた。


 **


 両断されて地面に倒れたフェイロンの体は、段々と黒い霧のようになって消滅しかけている。


『チッ、ここまでか……』

「驚いたね。どうやって喋ってるんだい?」

『……この状況で気になるのがそこかよ?』

「いやまあ、他にも色々とあるけどさ。教えてくれるのかい?」

『ハッ、話してやるわけねーだろ』

「だろう。なら僕と君の縁はここで終わりだよ。君に恨みはないけれど……悪いね」

『あっさりとしてやがるな、お前。まあいいさ……。ムカつくが、もう体がもたねえからな』


 話している間にもフェイロンの体は消滅していっている。もはや残っているのは肩より上くらいのものだ。


『ところでお前、あの時何しやがった?』

「あの時?」

『青い蝶を使って俺に術をかけただろう?』

「もしかして、君が急に意識を失ったあの時かい? あれは僕じゃないよ。だから、何が起きたのかは説明できないな」

『じゃあ……どこかの下世話な野郎が覗き見してやがったか』

「そうなのかい? なら、その誰かは僕にとって命の恩人というわけだ」

『じゃあ――そいつには気を付けるこったな』

「気を付ける? おかしなことを言うね」

『いいや、そんなこたねえよ。姿を現さないままお前を助けたってことは、つまりお前が負けたら不都合があるってこった。それが善意や良心からくるものならいいが、そうじゃない場合もある。そしてそういう手合は……っと、そろそろ時間切れか』

「気になるところでやめるね。どうせなら最後まで言いきってから消えてくれよ」

『ハッ、やなこったな。続きは、自分で考えてみやがれ』


 最後に悪態を吐いて、フェイロンの体は完全に消滅した。


「……君の言いたかったこと、わかるような気もするよ。けれどね、どんな思惑があろうと、相手が誰であろうと、命の恩に差はないんだよ」


 **


 泰伯がフェイロンの消滅を見届けたのと同時刻。

 旧校舎の屋上から泰伯を見下ろす影があった。


「まずは一人、か。あちらは……目覚めず。そして、未だ定まらずか」


 **


 フェイロンとの戦闘を終えた泰伯はその消滅を見届けると一気に緊張の糸が切れ、へなへなとその場に座り込んだ。

 そしてふと、先ほどまで手にしていた剣が元の木刀へと戻っていることに気づく。

 次にいつまた同じようなことがあるかわからない。その時の備えとして、この木刀は常に持っていなければと泰伯は思う。

 無論、二度とないのであればそれに越したことはないのだが、ないだろうと楽観するには今日の出来事は強烈に過ぎた。


(裸で持ち歩くわけにもいかないし……。部室に、竹刀袋の余りってあったかな?)


 へとへとの体を引きずって部室まで行ってから、泰伯は鍵がないことに気づく。

 辺りを見回して何か使える物がないかを探してみると、泰伯は、誰かがしまい忘れたらしいぼろぼろのバットケースを見つけた。


「これ、少し借りておくか」


 泰伯はそれの埃を払い、木刀をしまう。

 多少頭がはみ出てしまったが、むき出しのまま持ち歩くよりはよいので、この状態で持ち歩くことにした。

 既に裏門は施錠されていたので泰伯はこっそりと柵を乗り越えて外に出た。自転車は元の場所にそのまま置いてある。

 まっすぐに家に帰るかと考えたが、どうもそんな気分にならない。


「夕飯は済ませたのに……すごく、お腹が減った」


 携帯電話で時間を確認すると、時刻は夜の九時を回っていた。

 普段、茨木家の食事はたいてい妹の玲阿が作っている。たまに父親が用意してくれることもあるが、泰伯一人となるとカップラーメンなどで済ませてしまうのが大半だ。

 今から家に帰ってもう一度カップラーメンを作るかとも考えたが、今の泰伯はその気力すら沸いてこない。


鬼火丸(おにびまる)にでも行くか)


 結局泰伯は、家の近くにあるラーメン屋によって帰ることにした。

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