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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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consideration on the “soul name”

 そして五月四日の夕方六時。

 蒼天、龍輝丸と仁吉、泰伯は坂弓市内にある焼肉屋『狂天(ぎょうてん)』に来ていた。この店は全品国産が売りの店で、学生だけでやってくるには少しお高めの店である。しかしこの場にいるのは四人だけで大人はいない。

 店の前に来て仁吉は気後れしていた。

 そもそも――何故この面子で焼肉に来ることになったのかと言うと。

 今日一日、仁吉は家にいた。家でしたいことがあったとか、特に予定がなかったということでなく、先日の疲労で体が動かずにぐってりとしていたのである。

 そして夕方の五時くらいに家の呼び鈴がなった。ちょうど家に誰もいなかったので仁吉は重い体を引きずって玄関に出ると、そこに泰伯がいた。


「……なんだよ?」


 怪しげな外国語教材のセールスや新聞勧誘が来た、というくらいの面倒くさそうな顔をして泰伯を睨む。

 しかし泰伯は爽やかに笑って、


「先輩。焼肉いきませんか?」


 と言っていた。


「……なんで僕とお前とで焼肉なんか行かなきゃならないんだ?」

「実は南茨木さんから、先輩を誘ってきてほしいと頼まれまして」

「……如水じゃないよな? なら龍煇丸か」

「リュウキマルさん、ってどなたですか?」


 その反応を見て仁吉は、昨日の戦いの中で龍煇丸は自らを焱月龍煇丸と名乗っていなかったことを思い出す。


「……二年の南茨木さんだよ」

「は、はあ? まあ、そうですね。焼肉と言い出したのは彼女ですよ」


 泰伯は不思議そうな顔をしながら頷いた。


「じゃああいつもいるのか。それならなおさら、行くわけないだろ」

「あ、三国さんもいますよ」

「……まんま昨日のメンバーだな。まさかと思うが、あのフードの奴までいたりしないだろうな?」

「そちらは聞いていませんね」


 それもそうかと仁吉は思う。

 しかし面子を聞く限り、仁吉はとても行こうという気にならなかった。


「それで、どうですか。十八時に『狂天(ぎょうてん)』で、とのことなんですが、ご都合とかは?」

「『狂天』? あんなとこで焼肉食ったら、一月のバイト代が吹っ飛ぶぞ」

「南茨木さんは、払ってくれる人がいるからお金の心配はしなくていいと言っていましたよ。検非違使の方が昨日の慰労のつもりで奢ってくださるらしいです」


 その言葉に仁吉の心は少し揺れた。

 そして悩んだ末に、


「……夜六時に『狂天』だな?」


 行くことを決めて今に至る。

 しかし、検非違使の関係者が奢ってくれるとの話だったがこの場には学生四人しかいない。


「さ、んじゃ全員揃ったし入ろーぜ」


 龍煇丸は声を弾ませている。今の龍煇丸は戦闘時の格好ではなく、少しめかし込んでいた。

 しかし仁吉の足は重く、問い詰めるような眼差しで龍煇丸を睨んだ。


「……おい。検非違使の人が来るんじゃないのか?」

「んにゃ、来ないよ。でも話は通ってるから、金の心配はしなくていいぜ」


 龍煇丸は軽い調子で言う。


「そうらしいのでほれ、早く行くぞミナミカタ。人の金で食う焼肉じゃ、これに勝る美味はあるまい!!」


 蒼天も顔に満面の笑みを浮かべていた。


「何せ焼肉など七、八年は食っておらぬからの。余はもう我慢の限界じゃ!!」


 そう言って蒼天は颯爽と店の扉をくぐる。

 その背中を三人は真顔で見つめた。


「……今、七、八年って言いました?」

「あれか? チェーン店の安い肉は焼肉じゃないとか、そういう拘り強いのかな?」

「なんか……水さすのが悪い気がするから、もう余計なこと言わないでおくか」


 泰伯、龍煇丸、仁吉は何とも言えない雰囲気になり、無言のまま蒼天に続いて店内に入った。

 しかしいざ席につき、各々注文を終えて肉を焼き始めるとそんな空気はすぐに何処かへ吹き飛んだ。

 特に蒼天と龍煇丸は遠慮なしに高い肉をじゃんじゃん頼んでいる。龍煇丸はその上に大盛りのご飯を頼んで肉と一緒に豪勢に食べていた。

 仁吉はのんびりと自分のペースで食べていたが、気にしないようにと考えつつもどうしても隣の泰伯が気になってしまう。


「おい、それまだ生焼けだぞ?」

「え、これくらい焼けば十分ですよ」


 そう言って泰伯はその肉を一口で食べた。


「いや、それ豚肉だろ? さすがにもう少し火を通したほうがいいんじゃないか?」

「え、これ豚だったんですか?」


 その後も泰伯は、鶏肉を、そのままでもおいしいと焼肉のタレだけをつけて食べたり生焼けのホルモンをタレにたっぷり浸して飲むように食べたりしていた。


(こいつ、本当に舌が残念なんだな……)


 先日のサルミアッキの一件で半ば察していたが、改めて仁吉は確信した。そして蒼天と龍煇丸も、初めは気にしていなかったのだがそれに気づくと、泰伯を憐れみの目で見るようになった。


「なあ茨木。お前もう、米に焼肉のタレかけてひたすら食っとけよ」

「……同感だ」


 龍煇丸は笑顔でそう言い、仁吉も追随する。

 しかし泰伯は、


「別にいいじゃないか。南茨木さんだって僕と同じくらいは食べてるだろ?」


 と言って流した。どうしてそんなことを言われたのかさえ分かっていない顔である。


「ま、いいや。どうせ俺の金じゃねーし」


 龍煇丸は言うのが馬鹿らしくなったようで、気を取り直して自分の分の肉を焼いてまたパクパクと食べ始めた。

 しかし三十分もすると、元が少食な蒼天と、人並な上に今日は何もしていないのでそこまで腹の減っていなかった仁吉は段々とペースが落ちてきた。

 それまでほとんど会話らしい会話もせずに肉を食べてきたのだが、ふと思いついたように龍煇丸が三人に向かって言った。


「そーいや今の俺らってさ。傍目に見たらダブルデートでもしてるように見えるのかな?」


 仁吉と蒼天がせき込む。そして、なんて話題をするんだという目で龍輝丸を見た。

 泰伯は特に動じることもなく、どうなんだろうね、と他人事のような返事をしながら肉を焼いている。


「ほら、仮にそう見えるとしたらどういう組み合わせに見えるんだろうな?」

「……お前、そういうのやめろよな」

「気色の悪い話題をするでない……」


 仁吉と蒼天は心底冗談じゃない、という顔をした。

 泰伯はそもそもこういった話題に興味はなく、仁吉と蒼天は基本的に好まない性質なのだ。

 他に何か話題はないのかと蒼天が振ると、龍輝丸は少し考えてから、


「じゃあさ――三人の“鬼名”教えてくれない?」


 と言った。

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