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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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dear my friend_3

 忠江は、そもそも自分が何故深夜に外出していたのかよく思い出せていない。そしてよく分からないまま家に帰ると、家の前に蒼天と――銀髪眼帯の美形の女性がいるという不思議な状況となっていた。

 しかも蒼天は、ぼろぼろと子供のように泣きながら自分のほうへ走ってくる。忠江は何一つ状況が分からないままに、走ってくる蒼天に押し倒されてしまった。


「忠江、忠江じゃの!!」

「ちょ、どしたのヨッチ? 何かあった?」


 今の忠江は何も覚えていない。羿と嫦娥の過去を垣間見たこと、今際の際の羿と言葉を交わしたことは、羿の消失によって忠江の記憶から失われている。

 なので忠江には、何故か家の前にいた蒼天が自分に突撃して号泣しているしか認識出来なかった。

 それなのに――。

 子供のように泣きじゃくる蒼天を見ていると、忠江は胸が締め付けられるように苦しくなり、気がつけば蒼天と一緒になってわんわんと泣いていたのである。


「ははっ、なんか分かんねーけどすげーことになってんなこれ」


 龍煇丸はそんな二人を遠目に見ながら笑っていた。この状況を収集しようというつもりはまるで無い。当人たちがどうにかするだろう、くらいの気楽さである。

 そこに、また誰かがやってきた。

 深夜に号泣していることを咎めに来た近隣住民かと思ったが、どうやら違うらしい。その人物――ポニーテールの、灰色のワイシャツに黒ボトムスの女性は二人を見て茫然としていた。


「ねえ、そこの美人のオネーサン、もしかして二人の知り合いだったりする?」


 龍煇丸は軽い調子で声をかけた。

 その女性――南千里(みなみせんり)悌誉(やすよ)は急に話しかけられたことに驚きつつも頷く。

 そして、


「ええと、その……すまない、これはどういう状況なんだろうか?」


 と困ったように龍煇丸に聞いた。


「青春ってやつですよ、たぶん」


 龍煇丸はてきとうに答えた。悌誉は釈然としないままに、そうか、と返す。


「とりあえずそろそろ引っぺがしますか? 近所迷惑でしょーし」


 と言いながら龍煇丸は二人に近づくと、猫でも持ち上げるような雑さで蒼天を掴んで忠江から引き離した。


「ほらほら、続きは日が昇ってからやろーなアオゾラ」


 ひょいと持ち上げられて蒼天は手足をジタバタとさせている。悌誉も慌ててかけより、動揺している忠江の背中をさすってなんとか落ち着かせた。

 忠江は少し落ち着いたようで、


「……そんでヨッチ。これ、何?」


 と蒼天に聞く。蒼天は急に照れくさくなって、


「いやその……まあ、気にするでない」


 と誤魔化した。


「まあその、ほら……そこの――女の子が言ったみたいに、また落ち着いたときに話せばいいんじゃないか?」


 悌誉はそう言って強引に場を収めた。

 結局、忠江はそのまま家に入り、後には蒼天、龍煇丸、悌誉の三人が残される形となった。

 忠江が完全に家に入ると、悌誉は途端に目を細めて蒼天を睨み見つける。


「それで蒼天――。どうして、家で安静にしてるはずのお前がここにいるんだ?」

「そ、それはじゃのう……」

「家に帰ったらもぬけの殻で、今まで必死になって探してたんだが!?」

「……む、むぅ」


 悌誉に責められて蒼天は縮こまってしまった。

 龍煇丸はどうするか悩んでいたが、やがて蒼天を庇うようにその前に立った。


「まあまあ。えーと、美人のネーサン。よくわかんねーけど、アオゾラにも色々あったんだよ。ダチのために体張ってたってのかね? だからまあ、多目に見てやってよ」

「リュウキマル……」


 肩を持ってくれたことに感動するように蒼天は龍煇丸を見る。そう言われると悌誉も、


「……まあ、うん。忠江ちゃんが今ああしてるってことは色々あったんだろうし、分かったよ。もう怒りはしないさ」


 と、あっさり引き下がった。


「ま、アオゾラもあんま姉さんに心配かけんなよ」


 そう言って龍煇丸は蒼天の肩をポンと叩く。蒼天は少し不貞腐れながらも、そうじゃのと小さな声で返した。


「まー、そんじゃ今日はこれでお開きかね? あ、アオゾラ。連絡先教えてくんない? 今度また話したいし」

「え……。余、ケータイ持っておらぬ」

「……嘘でしょ? あ、じゃあお姉さんでもいいや。つなぎみたいな感じで悪いけどラインか……メルアドか電話番号でもいいし?」

「私も持ってないんだ。すまない」


 龍煇丸は二人の答えに唖然とした。この世に携帯電話を持っていない高校生がいるという事実を、UFOかUMAでも見つけた時のように驚いている。


「……じゃあさ。明日――いや、もう今日か? 適当な時間にどっかで待ち合わせない?」

「『ヒラルダ』のフードコートに十二時でよいかの?」


 蒼天の提案に龍煇丸は頷いた。

 そして、各々帰路に着く。

 帰り道、蒼天は当然のごとく悌誉に色々と聞かれたので当たり障りの無い範囲で答える。仁吉については、仁吉が異能の戦士であることについてどういうスタンスでいるか分からないので伏せておいた。

 そして龍煇丸については、桧楯の姉だと正直に話す。こちらは、龍煇丸は細かいことには拘らないだろうと考えたからだ。そもそも桧楯のことを知っており、南茨木家が宝貝(パオペイ)なる不思議な武器を管理する家柄だとも知っているのだから、今更だろうとも思っていた。


「なるほどな。まあ、ある意味納得ではあるよ。しかしそうなると、副会長もやっぱりそうなんだろうな」

「確か、桧楯の兄君じゃの? 三兄妹揃って戦士じゃと言うておったはずじゃ」


 悌誉はその言葉に、なるほどと頷いた。


「そういやその、先代副会長ってどんな人なんじゃ?」


 ふと気になって蒼天が聞く。

 悌誉は何と説明してよいか少し考えてから、


「……底無しに陽気な人、かな?」


 と、返した。

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