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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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sindbad the Sailor_5

 そして仁吉たちは、気づけば裏山にいた。

 すでに日は完全に沈み、夜空には月が昇っている。

 泰伯と船乗りシンドバッド以外は傀骸装を解いているが、仁吉と蒼天は疲れ果てて地面に突っ伏していた。そして龍輝丸は、もはや戦いの予感がしないので退屈そうにそのあたりに座っている。

 そんな中で泰伯は、腹に矢が刺さった船乗りシンドバッドを気遣った。


「大丈夫……じゃ、なさそうだよね? 何かできることはあるかい?」

『――気にするな。死にはしない。だが、回復にはそれなりに時を要するだろうな』


 突き放すように言って、船乗りシンドバッドはそのまま四人から離れるようによろよろと歩き出す。

 泰伯は心配になってその後を追った。


『……なんだ。ついてきたところで、お前では助けにはならんぞ』

「それはそうかもしれないけれど、だからって一人にしておくわけにもいかないだろう? 僕にはよくわからないけれど、かなり無理をしたんだろう?」

『まあ、伝説に名高い射日の飛矢だ。それなりに消耗する覚悟がなければ、止めることなど(あた)うまいよ』


 船乗りシンドバッドはやはり千鳥足でよろよろと歩いている。

 その姿が、泰伯にはとても痛々しく、そして頼もしく思えた。

 船乗りシンドバッドは、羿の矢が来たら止めると簡単に言ったが、その実はこれほどの傷を追う覚悟をしていたのだと今わかったのである。

 船乗りシンドバッドは顔は見えないが、泰伯の考えていることを察した。


『――気にするな。俺はいつでも、正しいことを、やるべきことをしているだけだ。その気持ちは、お前にも分かるだろう?』


 はっとした顔で、泰伯は目をあげた。


「……そうだね。すまない。僕は先輩たちのところに戻るよ」

『そうしてくれ』

「じゃあね。――お大事に」


 そう言い残して泰伯は踵を返す。

 背後ではいつの間にか、船乗りシンドバッドの姿が宵闇に溶けるように消えていた。

 船乗りシンドバッドのことを案じる気持ちはある。

 しかし、船乗りシンドバッドはただ、やると口にしたことを実行したにすぎない。

 それなのにその苦労を過度に誇張したり、大げさに誇るようなことは恥である。泰伯が船乗りシンドバッドの立場ならそう考えるだろうと思い、泰伯は敢えてこれ以上心配することをやめた。その態度は侮辱だと感じたのである。

 なので泰伯は仁吉たちのところに戻った。しかし船乗りシンドバッドについては、聞かれても何も話さないようにしようと決めていた。

 しかし、戻ってみるとそこには仁吉しかいなかった。

 その仁吉は大の字になって寝ている。


「あれ、先輩……。三国さんと南茨木さんは?」

「どっかいったよ」

「どこ行ったんですか?」

「だから、僕に聞くなよ!! ったた」


 叫んだ後に、仁吉は思わず左肩を抑えた。

 羿に射抜かれたのは傀骸装の時なので、傷が残ることはないのだが、今も仁吉は射抜かれたところに違和感を感じていた。おそらくこれは気分の問題であり、腕を吹き飛ばされた龍輝丸は何ともなかったので、慣れれば気にならなくなるのだろう。しかし、慣れるほど頻繁に手足を欠損したくない、と仁吉は思う。


「ま、まあ……。まだこの辺りにいるんじゃないのか? 心配なら探しに行けよ」

「……先輩は?」

「もう少し回復したら帰るよ。今日は、いろいろありすぎて疲れたんだ」


 仁吉は瞼をこすりながら言った。今にも眠ってしまいそうである。

 泰伯は無理やりに仁吉を担ぎ上げ、肩を支えた。

 仁吉には必死になって抵抗するが泰伯も強情である。


「いくら五月だからって、このままだと先輩寝そうですよ。野宿なんてダメですからね」

「……やめろよ。そんな、反応に困る正論を投げかけてくるな」

「じゃあ歩いてください。ほら、手助けしますから」


 仁吉は泰伯の手を払いのける。

 そして仕方なく、疲れた足を引きずって歩きだした。

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