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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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the riding archer

 少し時間を戻し、上空での信姫と為剣(ためあきら)との視点に移す。

 信姫は自身の能力で為剣を隔離することに成功した。

 信姫の解珠(かいじゅ)――飛花(ひか)落葉(らくよう)は武器の形状としては普通の日本刀だが、その刀には周囲一帯に結界を生み出し、その範囲内にいる相手を取り込む能力がある。

 鬼名解魂と口にしたのは為剣を動かすためのブラフであり、為剣という障害を排除するためには不要なものであった。

 そして飛花落葉で生み出した結界内では、信姫を除いて存在している生物は絶え間なく魔力を吸収され続けていく。

 信姫はその、自分にとって圧倒的有利な空間で、鬼名解魂まで使って(・・・・・・・・・)どうにか(・・・・)為剣の攻撃を(・・・・・・)凌いでいた(・・・・・)

 しかしそれもついには耐えきれず、やがてその手の日本刀こそが結界の核だということも露見し、刀を折られて結界は消滅した。

 再び夜の上空で対峙することになったが、為剣は空に月宮殿の姿がないのを見て舌打ちした。二人の対決ということならば為剣の圧勝だが、月宮殿を墜とすという意味でなら信姫の勝利である。


「大した女だな、お前。完全にしてやられたよ」


 先ほどまでずっと魔力を吸われ続けていたはずなのだが為剣はまだ涼しい顔をしている。対して信姫は、顔に笑みこそ浮かべているが、疲労と苦痛とが隠しきれていない。


「なら、健闘に免じてここで手落ちにしてもらえませんか? 城が墜ちた以上、もう私たちが戦う理由はないと思うのですが?」

「ま、それもそうだな。なら――」


 そう言うと為剣は、空を滑って移動する。


「ここでテメェを引っ捕らえて、目的について洗いざらい吐いてもらうことにするよ!!」


 信姫は折れた刀を構えた。

 その時である。

 為剣が急に足を止めた。そのすぐ前を、五つの光弾が横切る。


「やめとけよオッサン。手負いのオンナに武器振りかざすなんざ、いい大人のやることじゃないぜ?」


 いつの間にか為剣の背後にもう一人、金髪の男が立っていた。血のように真っ赤なコートを来た若い男である。左右の腰には黒いホルスターを付け、銀色の大型拳銃を入れていた。


「ほら、今のうちに行けよ。ここは俺が引き受けてやるからよ」

「……ありがとうございます」


 信姫は弱々しい声で礼を言うと、乗っている九頭の雉に命じて降下していった。為剣が追おうとすると金髪の男は拳銃を手にした。

 そしてわざとらしく引き金に人差し指を入れてくるくると回してからしっかりと握り、無造作に撃つ。

 照準など合わせてはいないのだが、大型拳銃から放たれた光の弾は弧を描きながら自然と為剣の体を狙うような軌道を描いた。

 為剣は足を止め、長柄武器、グレイヴでそれらをすべて薙ぎ払う。その間に信姫の姿はもう見えなくなっていた。 


「なんだ、身代わりか? あいつが逃げるならまあいいさ。代わりにお前から話を聞くとする」

「生憎だが、男と茶をする趣味はねえよ」

「なら女の尋問官をつけてやろう。それも飛び切りの美人をな」

「ははっ、そりゃなんとも魅力的な提案だ。話が分かるじゃねえかアンタ」


 金髪の男はにやりと笑う。


「だけど残念ながら、俺は合コンよりナンパが好きなんだ。まして他人にセッティングしてもらうなんて面白くもなんともねえ――よ!!」


 叫び、金髪の男は銃を乱射する。何十発という光弾はすべて、不規則な軌道をしながら為剣を追ってきた。

 金髪の男は為剣とは違い、空中には存在しないはずの足場のようなものを蹴るようにして移動している。そして絶え間なく光弾を撃ち続けているのだが、為剣は次第に距離を詰めてきている。


「ハハッ、マジかよ(すげ)ぇなアンタ!! 話にゃ聞いてたが何もかもデタラメだぜ!!」

「自慢の攻撃が防がれたら相手を称賛か――。未熟者の発想だな」


 為剣は無表情で、自分に向かって迫りくる光弾をひたすらに薙ぎ払いつつ超高速で金髪の男に迫っていた。

 そして遂に、グレイヴの穂先が金髪の男の喉元に突きつけられる。金髪の男は拳銃を手放して地面に落とし、両手を上げて降参のポーズを取った。


「ま、分かっちゃいたがやっぱり強いよなアンタ。完敗だよ」

「……なんだ。やけにあっさりだな? まだ切り札はあるだろう? お前も、“鬼名”を持っているだろうしな」


 完全に優位を取りながら、しかし為剣はまだ警戒している。金髪の男もまた、信姫と同様に鬼名を持っていると直感で感じていた。そして鬼名解魂は、内容によってはこの状態から盤面をひっくり返す力を持つものもある。


「ま、あるっちゃあるがそう大した名前じゃないんでね。俺のは――()()()()()()()()()()()()()()()()()と、後の世にそう評された、つまらない名前さ」


 金髪の男はハッ、と自嘲するように息を吐いた。

 そしてそのまま、無言で自分を警戒している為剣を見ながら言葉を続ける。


「最初っから、アンタと勝負になるなんて思っちゃいねーよ。しかしまあ、あの女にこんなところでリタイアされるわけにはいかないし、俺自身も一度はアンタの実力を見ておきたかったからな」

「その結果、こうして捕まるのも本望だと?」

「まさか――。この偵察は(・・・・・)高くついたぜ(・・・・・・)


 そう言った途端、金髪の男が全身から煙を吹きだしたかと思うと、パンという破裂音とともに弾け、跡には木で出来た、文庫本くらいの大きさの人形(ひとがた)だけが残されていた。


「魔力を込めた者の能力を、少しの時間だけ完全に再現できる遠隔操作型の分身か。随分と手の込んだことをしやがる」


 為剣は人形(ひとがた)を手にして深いため息をつく。

 つまり収穫は何一つなしということで、これから待ち受ける月宮殿陥落の事後対応のことを思うと為剣は気分が重くなっていた。

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