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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
242/387

she is hostess of barbaroi_3

「随分と、手酷くやられたものですね」


 羿はぼろぼろになって、木に寄りかかって座り込んでいる羿にそう言葉を投げた。

 しかしそう口にする信姫のほうも、白い着物はあちこちが切り裂かれたり煤焼けていたりして、顔には疲労の色がありありと見える。


『……お前も大概じゃないか?』


 思わず羿はそう言ってしまった。


「ええ。まあ、仕方ありませんね。隣、いいですか?」


 と断った時には、信姫はもう羿の隣の木に腰を下ろしていた。少し苛立ちはしたが、羿が月宮殿を墜とすための援護をした結果とわかっているので口をつぐむ。


『それで――そんなザマで、何をしにきた?』

「それはもちろん――貴方の顔を見に来たのですよ。きっとこれが、今生の別れでしょうから」


 信姫は相好を崩した。それが本心だというのが羿にはわかる。


『お前も、変わった女だ。後先を考えず、随分と割に合わないことをしたものだな?』

「ええ、これは――打算ではありませんので」

『死んでいたかもしれないんだぞ?』

「それでも、ですよ。月宮殿を墜とすことは、貴方にとって絶対に必要なことだったのでしょう? ならば、私はその願いのために尽力するまでです」


 信姫の言う通り、確かに不八徳としてこの世に現れた時は、それを至上としていた。

 他のことなど何も考えず、月宮殿を墜とし、神籍に戻り、仙界を破壊することだけを考えていた。しかし今は、そんな感情が遠くに見える燎原の火のように思えてきた。

 そして思うのは、


『……この少女には、悪いことをした』


 ぽつりと漏れ出た言葉が、羿の本音である。


「そうですね。確かに、貴方の行動は何一つとして、英雄らしからぬものばかりです」


 羿はムッとして信姫を睨む。


「ですが――正しいことしかしないよりも、己の心に正直に生きていくほうが人間らしいではありませんか。私はそんな――今の貴方が好きですよ」

『……そうか』


 羿の顔はとても穏やかだ。

 そして、その体から白く輝く煙のようなものが漏れ出している。


『……今回も(・・・)俺が先駆けか(・・・・・・)。だが、色々と世話になった』

「ええ。貴方の魂に、安らぎがあらんことを」

『それならば、一つ頼みたいことがある』

「ええ。何なりと」


 信姫が即諾してくれたことで、羿の心は救われた。

 そして――その魂は、光となって空へ消えていった。

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