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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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don't cry my dear

 蒼天目掛けて羿は神力の矢を放つ。

 しかしその軌道は、まず龍煇丸の心臓へ向かっていた。

 あまりの速さに泰伯は反応出来ない。

 しかし仁吉は、自分でも信じられない速さで体が動き、龍煇丸を抱えて横に飛ぶ。仁吉の左肩が大きく抉られた。しかし、辛うじて心臓には当たっていない。

 矢はそのまま凄まじい速度で蒼天に向かっていく。

 船乗りシンドバッドが蒼天の前に立った。

 船乗りシンドバッドは両手を前に出す。そこに八角形の魔法陣のような物が現れた。それは羿の神力の矢を一瞬だけ止める。船乗りシンドバッドはさらに魔法陣目掛けて拳と足を繰り出した。

 そして――。

 魔法陣は砕け、船乗りシンドバッドの腹に突き刺さる。しかしその矢が貫通して蒼天に届くことはなかった。

 それは刹那の攻防だった。

 蒼天には羿が矢を番えてから今に至るまでに何があったのかほとんど認識出来ていない。

 ただ、船乗りシンドバッドが、羿が矢を番えた時に何かを小さく唱えたということだけは分かった。

 

(しかし、これで二本目。使い切ったはずじゃ!!)


 蒼天は金色の弓に矢を番える。

 しかしその時、羿も矢を番えていた。

 それは、羿にとって最後の一矢である。これを射てしまえば最後、此度の生で羿の宿願が叶うことはないだろう。

 だがそれは羿の手を止める理由にならない。

 しかし羿は、手を止めてしまった。

 今の一矢を防がれたことで動揺したため、動次の動作へと繋ぐ動きが僅かに鈍り――(やじり)を見てしまった。

 白く、鏡のように磨かれた鏃に写る顔を。

 呪いによって、今は嫦娥の顔である。そこに写るかつての妻の顔が、泣いているように思えたのだ。

 羿に躊躇いはない。この場にいる者はすべて敵であり、縁故など何一つとしてない。だから羿が無意識のうちにそんな顔をすることなどあり得ない。

 泣いているのは嫦娥――その転生者である忠江だ。

 羿と嫦娥は表裏一体。一つの肉体の中に二つの魂を有している。今は羿が表に出ており、嫦娥の魂は奥底に封じこめた。忠江の意識はそのさらに奥に、残り火のように存在しているに過ぎない。

 そんなものが表に現れることなどないはずなのだ。

 しかし羿がそのように感じてしまったことは事実で、そして泰伯はその隙を見逃さなかった。


「――破軍(はぐん)風刃(ふうじん)!!」


 無斬に黒い旋風を纏わせて羿を斬りつける。羿の左腕が肩のところから落とされ、握った大弓とともに宙を舞った。

 そこへ。

 蒼天の放った矢が、羿の右腕を吹き飛ばす。

 羿は倒れ、傀骸装が解けた。飛ばされた両腕は元に戻ったが、肉体は未だ羿のままである。

 ならばと泰伯はとりあえず羿を拘束しようと進み出た。蒼天もチャリオットを寄せて近寄った。

 その時である。

 地面が揺れ、空が――といってもこの空間のだが――罅割れだした。地が裂けて羿の体はその中に消えて行く。

 月宮殿が異界化したというこの空間は崩壊を始めた。

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