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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
237/388

lightning bow

七重の鎧、夜の鳥、星の眉間、白い猿

蜻蛉の羽根を 射るより易し

 蒼天の鬼名(きめい)解魂(かいごん)は二つの能力を持つ。

 一つは悌誉(やすよ)との戦いで使用した、楚の王として覇道を為した大軍勢を召喚する能力である。

 そしてもう一つは、かつて()荘王(そうおう)に仕えた臣下の解珠を、持ち主の技量まで再現して扱うことである。

 荘王在位の時、楚はまさに絶頂期であり将兵ともに秀でていた。それらを戦況に応じて手足の如く使いこなせたからこそ、荘王は覇道を邁進出来たのである。

 そして、蒼天が今作り出したそれは、荘王の臣下の中でも格段の射手の弓であった。

 雷上動(らいしょうどう)と呼ばれる金色の弓の持ち手は中国指折りの弓の達人であり、その勇名は(・・・・・)羿と並び(・・・・)称されている(・・・・・・)

 それだけに魔力の消費も半端ではなく、今の蒼天にはかなり大きな負担だ。しかし、それに見合うだけの力を持っている。

 蒼天は雷上動に矢を番え引き絞った。自分でも驚くほどにその挙動は滑らかであり、どう弓を傾けてどのように放てば狙った場所へ矢を射れるかがはっきりと分かるのである。

 それは蒼天にとって、前世を含めても至れなかった感覚だった。

 その感覚に従い、蒼天は羿目掛けて矢を放つ。

 そして、蒼天が矢を放つ少し前。

 龍煇丸は蒼天の予想通り、一撃で窫窳を踏み潰していた。そして今まさに番えた矢を放ち龍煇丸を射殺そうとしている羿と対峙している。

 龍煇丸は羿の存在を忘れていたわけではない。窫窳を狙って降下していた時から今に至るまで絶えず警戒はしていたし、このままの勢いで羿に飛びかかるつもりでいた。

 仕掛けて一撃で倒せればそれで問題はなく、仕留め損なっても隙を作れれば蒼天たちに勝機を与えられるだろうという考えはある。

 自分は致命傷さえ避ければよく、如何に相手が神話の射手でも、それくらいのことは出来ると踏んでいた。

 しかし羿の番えた矢を一目見た瞬間にそんな考えは吹き飛んだ。

 これは、対先ほど月宮殿を落とし、神話の中で太陽さえ射落としたという矢に他ならないと察したのである。

 ここでこの矢を使ってはこないだろうと龍煇丸は推測していた。船乗りシンドバッドの話では残りは二矢ということだった。虎の子の矢の一本をここで龍煇丸を潰すために消費するとは思っていなかったのである。

 龍煇丸は反射で身構えた。しかし、今の自分では到底防ぎ得ないと本能で理解してしまっている。

 その時だった。龍煇丸は急に体の奥から燃え滾るような熱が沸き起こってくるのを感じた。それはマグマ溜りにでも落ちたかのような、自分も敵もそれ以外のすべても等しく融かしてしまうほどの熱である。

 この熱を吐き出せば自分は助かる。羿の矢を防げる。どころか、羿さえ一撃の下に倒してしまえるだろう。何故だかそう思うのに、龍煇丸には躊躇いがあった。

 その間に――。

 羿より僅かに早く蒼天が矢を放つ。龍煇丸の頭上を通りながら羿の左腕を狙う一矢である。羿はその矢を躱そうとしつつ龍煇丸目掛けて矢を放つ。しかし蒼天の矢は左腕を浅く裂き、そのせいで羿の放った矢は龍煇丸を素通りして遥か彷徨へと飛んでいった。

 羿は舌打ちしながら慌てて後方へ跳ぶ。

 それを龍煇丸は――茫然自失として、正しく認識さえしていなかった。

 龍煇丸にとっては間違いなく絶好の機会である。矢を外し、腕に傷を負った射手が眼前にいるのだ。しかし龍煇丸は動けなかった。

 それは疲労や怪我といった理由ではない。

 羿の矢に狙われた刹那、何処からともなく沸き上がってきた謎の熱。仮に蒼天の矢が間に合わずとも、その熱を解き放ってさえいれば龍煇丸は助かっていただろう。

 しかしその熱が、龍煇丸には耐え難く気持ち悪かった(・・・・・・・)


「惚けるなエンゲツ、攻め立てよ!!」


 蒼天の激で龍煇丸は我に返る。

 先ほどのあれが何なのかは分からないが、今はそれを考えている時ではないと思い直した。

 トンファーを振り上げ羿に向かって吶喊(とっかん)する。しかしその時、羿は弓に三本の矢を番えていた。

 そして放たれたその矢を――。

 龍煇丸を庇うようにその前に立った仁吉と泰伯が、すべて薙ぎ払った。


「南茨木さん、大丈夫かい?」

「なんというか、悪運の強い奴だなお前は」


 二人を見て龍煇丸は、


「んだよ、別に俺一人でも余裕だったんだけどね」


 と敢えて憎まれ口を叩いて笑った。

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