表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
236/388

crimson lotus bursting

 龍煇丸は泰伯を空に打ち上げるとそのまま巴蛇へ向かっていった。巴蛇は龍煇丸を一睨みするとそのまま、地中に消えた(・・・・・・)。それは穴を掘ったとか姿を消す術を使ったというのでなく、まるで水に潜るようだった(・・・・・・・・・)


「へえ、土遁か」


 少しだけ考えて龍煇丸はその近くにいる大牛、窫窳(あつゆ)のほうへ駆け出した。窫窳は未だ動く気配がなく、羿の盾になるように立ちはだかって鼻息を荒くしている。

 姿が見えない巴蛇を相手どるよりはやりやすいほうから潰そうという魂胆だ。

 龍煇丸がトンファーを振りかざし窫窳に飛びかかる。その時だった。龍煇丸の真下から巴蛇が飛び出して来た。

 大口を開けて龍煇丸を一呑みにせんとする巴蛇から逃げ切れず、龍煇丸は呑み込まれてそのまま地中へと消えていった。


「俺を食っても、胃が爛れるぜ!!」


 龍煇丸は巴蛇の口内で暴れながら、トンファーの両端から炎を噴射する。口の中が熱くなった巴蛇は堪らず龍煇丸を吐き出した。

 そうして放り出されたのは、地中でありながら水中と変わらないという不思議な場所である。


(なるほど、地面を川みたいに泳ぐってのがこいつの能力か。いや、俺もこうして泳げてるんだから、地面を水中みたいに変えるってほうが正確か?)


 巴蛇は炎のお返しと言わんばかりに龍煇丸に向かってくる。龍煇丸は立ち泳ぎの要領でどうにか躱そうとするが上手くいかない。息継ぎの問題は今のところないが、決め手に欠けて勝負が長引くと傀骸装とはいえ溺死する可能性はあるので、そこまで悠長に構えてはいられない。

 対して巴蛇は悠々としている。こういう術を使うのだから呼吸の心配はないだろうし、水中戦でどちらに分があるかなどは明確だ。

 加えて問題はまだある。

 それは、巴蛇のこの術は、巴蛇を倒した時にどうなるかということだ。

 もしここで巴蛇に勝てたとしても、その瞬間に術の効果が失われて元の地中に戻ってしまえば龍煇丸は生き埋めだ。


(さて……。どうすっかな?)


 ただでさえ不利な条件で、しかもこの場で勝ってはいけないという制約もある。


(普通の土とか舗装の下とかなら、まあどうにか脱出くらい出来んだけどいかんせい月宮殿が落ちて異界化したとこだからなー。この程度の敵に勝って人生オシマイの博打する気にゃなれねーよ、さすがに)


 頑張れば勝てそうだ、というのが龍煇丸の直感である。そもそも龍煇丸自体、搦手や奇策というものを好まず、自身もそういう類の術など持っていない。


(とりあえず陸……ってのもおかしな表現だけど、そこに上がるのが先決だよな。しかしそれだとなんつーか、逃げたようで気に食わない)


 そう考えて龍煇丸はニヤリと笑う。

 そして泳ぐのをやめ、大口を開けて迫ってくる巴蛇を真っ向から見据えた。

 巴蛇の牙が龍煇丸に届く寸前に、龍煇丸は右手を高く掲げる。トンファーの先端から炎がジェットのように噴き出し、龍煇丸の体をさらに深く沈めた。

 巴蛇の一撃は外れ、龍煇丸は巴蛇の胴体の下に潜り込む。龍煇丸は、右手を下に向けた。トンファーから噴き出す炎はそのまま推進力として利用し、巴蛇に体当たりを仕掛ける。

 その威力は凄まじく、龍煇丸の体の何十倍もある巴蛇の体を上へ上へと持ち上げていった。

 そして、ついに水中を脱する。龍煇丸の上昇はまだ止まらない。


「生憎だったな。俺の炎は水ん中でも燃えるんだよ、これが。液中燃焼ってやつらしーぜ」


 水圧の枷がなくなった今、龍煇丸は伸び伸びと四肢を振るう。まずは巴蛇の胴体目掛けて殴りかかった。炎の噴射はそのままなので目にも留まらぬ速度である。巴蛇の体は殴られたところが飛散し、一瞬で真っ二つになった。

 龍煇丸はさらに空中から窫窳のほうを見ると、両腕を真っ直ぐ伸ばす。今度はトンファーの後ろ部分から炎が噴き出し、龍煇丸の体を窫窳のほうへ降下させた。


(あのあほたわけめ)


 そう叫んだのは蒼天である。

 窫窳はずっと、羿の前に立っていたのである。それを倒してしまえば、即座に龍煇丸は羿の標的となるだろう。

 事実、羿は弓に矢を番えている。

 泰伯は大風と戦った場所から戻って来ている最中で、船乗りシンドバッドはまだ鑿歯(さくし)と交戦中だ。

 蒼天はチャリオットを前進させるがとても間に合う距離ではない。

 そして龍煇丸はそんなことなど意に介さず、龍煇丸は足を飛び蹴りの形にして降下していく。超高速で窫窳の頭部へ向かっているのでその一撃で決着となるだろう。

 

(まあ、向こうのネタもほとんど尽きたようなものじゃし……使いどころじゃの(・・・・・・・・)!!)


 蒼天は対羿に温存していた切り札をここで使う腹を決めた。

 そして叫ぶ。


「“霹靂走りて水面(みなも)裂け、鳴神(なるかみ)響きて(つわもの)散る”――雷上動(らいしょうどう)!!」


 その瞬間、蒼天の手に金色に輝く大弓が握られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ