black wind raging
羿を守るように現れる三つの影は、段々とその輪郭がはっきりとしていく。
一体は、巨大な猛禽である。その全身は灰色で、しかし大きく広げた翼は孔雀の飾り羽のような模様がある。
一体は大型バスほどの巨大な体躯を持った真っ赤な牛だった。鼻息を荒くして蒼天たちのほうを睨んでいる。
最後の一体は体が真っ黒な大蛇だった。大きなその口は少し開くだけで人間を丸のみにできそうなほどの大きさであり、その全長はざっと見ただけでも百メートルを優に超えている。
『猛禽が『大風』、あばれ牛が『窫窳』、黒い大蛇が『巴蛇』だな』
船乗りシンドバッドが三体の怪物を指して説明する。しかし先ほどの説明では、羿が退治したという怪物はあと四体いるはずだった。一体足りない。
『残るは――』
そう口にした瞬間、何かに気づいた船乗りシンドバッドは手綱を手放して蒼天のほうへ跳ぶ。ちょうどその時、密かに何者かが蒼天めがけて突進してきていた。
船乗りシンドバッドは蒼天を庇い、そのまま何者かともみ合ってチャリオットから転げ落ちる。
蒼天を狙ってきた者の正体。それは、頭が狼のようで、しかも異様に牙が大きい人型の怪物だった。体躯も大きく、二メートルは超えている。全身は鋼鉄でできているかのように黒く輝いており、両手の甲と踵からは三日月状の鋭い牙が生えている。
『鑿歯』か!!』
鑿歯と呼ばれた獣人の怪物は、そのまま船乗りシンドバッドと交戦を始めた。
そしてチャリオットの上では龍輝丸が、船乗りシンドバッドと鑿歯のことなど歯牙にもかけず前方の三体の怪物を見つめている。
「さて茨木くん。二つ貰う約束だけど、それだけだと悪いからせめて選ばせてあげるよ」
「悪いだなんて、そんなことは全くないんだけれどさ。それなら、あの猛禽――タイフウ、だったかな? 僕はあれをやるよ」
「なら俺は大蛇に猛牛か。うっし、テンションぶちあがって来たぜ!!」
泰伯は真剣な顔つきで。
龍輝丸は獰猛に笑いながら。
それぞれチャリオットから飛び降りて前方へ走り出す。
「ちなみに茨木くん、空とか飛べたりすんの?」
「いいや、無理だね」
真顔で言うので龍輝丸は少しだけ驚いて、そして笑った。
「よくそれで、あんなの相手しようなんて言い出したね。難易度上げたいの?」
「そういうわけじゃないよ。南茨木さんに二体担当してもらうなら、地上の敵だけを警戒するほうがまだやりやすいだろうと思ってね」
「へぇ、そういうことね。そりゃどーも。んじゃお礼に一ついいもんあげるよ」
龍輝丸はそう言うと泰伯の服を掴んでひょいと持ち上げる。そしてそのままの勢いで空中へ軽く投げた。
「な、何するつもりだい?」
「そりゃもちろん――敵陣への片道キップだよ!!」
龍輝丸が泰伯の背を右手のトンファーで殴る。トンファーが触れたところから炎が噴き出し、砲弾のような勢いで泰伯を大風のところへと飛ばした。最初こそ困惑したが、泰伯はその勢いに逆らわずに大風をまっすぐに見据えて剣を振りかざす。
射程内に入ればすぐに遠隔斬撃――“南風黒旋”を放って両断しようというのだ。
しかし、それより先に大風の翼が輝く。孔雀の飾り羽根にある、目玉のような無数の紋様が白い光を放ち――光弾の嵐が泰伯を呑み込んだ。




