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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue2 “*lac*s*i*h in my soul”
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BLACK StorM In THe blank_4

 泰伯はつい今まで確かに旧校舎のある森の中にいたはずだ。

 それが今は全く違う場所にいる。

 濠々と滝の音が鳴り響くだだっ広い空間であり、その中心に一人の男が座っていた。

 男はざんばら髪で黒い長襦袢を左前に着た、年の頃は二十歳そこそこという身なりである。


「ここは……?」

(オレ)の庵だ。そしてお前の魂を鍛造するための場所でもある』


 男は泰伯のほうを見ずにぶっきらぼうに答え、虚空を見つめている。


「魂の、鍛造……ですか?」

『ああ。ま、今はまだ無理だがな。未だ天地の気は定まらず三道は交わっていない。無形無跡の中に有を見出だすことこそが真髄なれどそれは未だ顕れず、ただ虚の中に(から)があるだけだ』


 不可解な、そして、中身があるようで何もなさそうなことを男は大真面目な顔で話している。普段の泰伯であればこんな言葉にも真摯に応対したかもしれないが、今はそんな余裕はない。


「すいません、また今度でもいいですか? 今はそれどころじゃないので」

『なるほど、確かに忙しかろうさ。だけど焦ってここから出てもどうにもならないぜ? 死に急ぐことはなかろう。相変わらず無謀が好きだな(やす)――と、悪い。忘れろ』

「……?」

『とにかくだ。そのままなら死ぬぜ。それも犬死にだ。それは本意じゃないだろう――泰伯(やすたけ)


 そこで初めて男は立ち上がり、泰伯の方を見た。

 その眼差しはいたって真面目で、ただ話しているだけにも関わらず、真剣勝負を挑まれているような緊張感がある。


「もちろん死ぬのは嫌ですよ。ただ――それ以上に耐えられないことがあるだけです」

『わかってるさ。だから――そのまま行くなって言ってるんだ』


 そう言って男は何かを放り投げた。

 受け取ったそれは、先ほどまで泰伯が使っていた木刀に似ている。


『今からこいつを、お前仕様に打ち治してやる。そいつにお前の魂を(とか)し流せ』

「……はい?」

『ほら、早くやれよ。時間ないんだろ?』

「いやあの、せめてもう少し具体的に説明してもらえませんか?」


 男の説明はあまりに抽象的すぎて、何をすればよいのか、何をさせたいのかが泰伯にはまったくわからない。そして男は、そんな泰伯を察しの悪い奴と言わんばかりに声を荒げ始めた。


『ったく、毎朝やってることだろうがよ。意識を集中し、心を凪にし、魂を折り重ねろ。“(オレ)”を呼び出してるみたいにな』

「……もしかして、貴方は」

『いいからやれ、もうあんまり猶予はないぞ!!』


 男に急かされて泰伯は、言われた通りにする。

 いつもの朝、道場でそうするように。

 すると、泰伯の手から木刀にかけて黒い旋風が走り、やがて木刀をまったく異なるものへ――剣へと変質させていく。


『今日はここまでだ。あとはお前次第だぜ。しっかりやれよ、泰伯』

「……うん。ありがとう、僕の中の黒い剣士」


 礼を言ったのが合図のように、泰伯の視界は再び移り変わり、現実へと引き戻されていく。その最中、最後に泰伯が聞いた言葉は――。


『剣士じゃねえよ。(オレ)は――』


 **


 prologue2 “*blacksmith in my soul”

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