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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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irregular four_2

 突如現れ、火の鳥を一撃で倒した龍煇丸を、泰伯は警戒しつつ睨んでいた。


「……ウルトラマンの話をしてたと思えば、なんだか王蛇みたいな子がやってきましまね?」


 隣の仁吉に小声で言う。

 しかし仁吉は、


「どちらかと言えば剣斬だな。王蛇ほど危なくはない……はずだ」


 と、ため息混じりに返す。その反応に泰伯はおや、という顔をした。


「お知り合いですか?」

「……まあ、一応」


 気疲れを隠そうともせずに仁吉は言う。

 面識があるのは事実で、助けられたのも事実だ。あのまま逃げ回っていても活路はなかったし、下手に泰伯に借りを作るよりはマシだなとは思いつつも、どうしても仁吉は心の中に、


(また面倒な奴が増えたな……)


 という気持ちを抱かずにはいられなかった。

 しかし龍煇丸はそんな仁吉の気持ちを知ってか知らずか、仁吉のほうを見ておおきく手を振った。


「あ、(みな)ちゃん先輩じゃーん。おっすー、元気ー、生きてるー?」

「……おかげさまでね」


 やや気だるげで覇気のない声だが、しかし感謝だけは込めて仁吉は言う。

 そして龍煇丸はそんな仁吉の返事を特に気にせず、仁吉が抱えている蒼天を見ると、ひったくるように掴んでそのまま持ち上げた。


「赤毛で、ちっこい。こいつか、お嬢が言ってたのは」


 そのまま龍煇丸は蒼天をぶんぶんと振り回した。


「おーい、起きろ赤毛ちゃーん。ほらほらー、高いたかーい」


 まるで人形でも扱うように龍煇丸は蒼天を振り回している。そして、


「ほーら、元気だせよー赤毛のおチビちゃーん」


 その言葉が呼び水となった。


「……だ、誰じゃ、余のことをチビと言った奴はーっ!!」


 蒼天は両脇に手をかけられて持ち上げられながら大声で叫んだ。


「え、だってチビじゃん? 身長何センチ? ちなみに俺は165あるけど!?」


 その言葉に蒼天は言葉を詰まらせた。そして、唸るような小さな声で、


「……ひ、人の価値は背丈ではない」


 と負け惜しみを言う。


「見たとこ150ってとこ? まあでもいいじゃん、女子はちっちゃうほうが可愛らしいぜ?」

「おぬしだって女子じゃろがい!!」

「んー、俺はまあ――可愛くてカッコいいから」


 龍煇丸は顔を引き締めて笑う。持ち上げられてジタバタとしながら騒いでいる蒼天と並べると、どうにも傍目には子供をあやしているお姉さんのように見える。


「……先輩、なんなんですかあれ?」

「……女子会ってやつじゃないか?」


 泰伯の問いかけに仁吉は投げやりに答えた。

 しばらく二人のやりとりを見ていたが、やがて泰伯は蒼天の体調が芳しくなかったことを思い出し龍煇丸に近づく。


「あの、えっとそこの君。どうも彼女……三国さんは体調不良のようでね。あまり振り回さないであげてほしいんだけれど」

「い、いやヤスタケどの……。いちおう、何故だか先ほどよりは体が軽いのじゃが……それはそれとして、気持ち悪い」


 蒼天は龍煇丸に振り回されて軽く酔ってしまった。

 そう言われて龍煇丸は蒼天をゆっくりと地面に降ろす。そしてまだ立腹な蒼天の頭を撫でながら泰伯を見て、


「あれ、茨木くん? なんだ、お前もこっち側なんだ?」


 と言った。

 しかし仁吉は龍煇丸に見覚えがなく、


「……あの、どちら様ですか?」


 と首を傾げた。


「なんだ、分かんないんだ。茨木くんの視力は(みな)ちゃん先輩と似たりよったりだね」


 その台詞に、横で聞いていた仁吉はこめかみに青筋を浮かべた。


「……おい、どうにかして思い出せよ。お前の同学年だぞ」


 仁吉は声を低くして言う。しかし泰伯にはやはりピンと来ないようだった。


「……一応、会長に言われて全校生徒の顔と名前が一致するように少しずつ覚えてはいるんですが」

「……蔵碓のやつ、それを伝統にしてくつもりなのかよ?」


 蔵碓は生徒会長の責務と言って、坂弓高校の生徒すべての顔と名前を記憶している。それを聞いた時の仁吉は、生徒会長だからといってそこまでする必要があるのかと疑問に思った。

 そして蔵碓は、おそらく次期会長になるであろう泰伯にまでそれを強制しようとしているらしいと知って仁吉は顔をしかめた。

 泰伯の苦労などは気にしないが、その翌年以降の生徒会長のことを思うと不憫に思えて来る。だから泰伯は少し苦言を呈しようと思った。

 しかし泰伯は、


「いえ、これは先代からの伝統らしいです」


 と言う。その言葉に仁吉は大きくため息をついた。


「あー、あの人か……。じゃあ、仕方ないな」


 呆れながらも、納得したような声だった。


「つーか蔵碓のオッサン、よくアレの後に会長やろうとか思えたよね」


 そして龍煇丸も会話を聞きながら、出てきた先代生徒会長の話題に納得したように頷く。


「む、なんじゃ? 何の話じゃ?」


 蒼天は子供にするように頭を撫でてくる龍煇丸の手を払い除けて聞いた。蔵碓の先代の生徒会長の話なので、一年生の蒼天には全く無縁だからだ。


「今の生徒会長の前任者でね。武庫之荘(むこのそう)先輩って人なんだけれど……。まあ、変な人でね」


 泰伯は遠い目をしてしみじみと言う。


「うんまあ……変な人だったな」


 仁吉も泰伯に追随した。

 そして龍煇丸は、


「あ、でもちょっと赤毛ちゃんと雰囲気似てるかも」


 と軽い口調で言った。

 その評価に仁吉と泰伯はそうかな、という顔をした。

 見知らぬその先代生徒会長と似ていると言われた蒼天は反応に困りながら龍煇丸の顔を見て、急に龍煇丸を指差して叫んだ。


「あー、そういえばおぬしは!!」

「ん、どうした赤毛ちゃん?」

「こないだ余にデタラメな道を教えた桧楯(ひたち)の姉ではないかーっ!!」


 『坂弓フードフェス』での出来事を思い出し、忘れていた怒りを沸々と再燃させていた。

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