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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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unforgettable bad moon_3

 今まさに壊滅の危機に瀕している月宮殿から飛び出したのは、黒いコートに身を包んだ見た目三十代ほどの男だった。ざんばらに切り揃えた銀髪をワックスでハリネズミのように逆立てた、目つきの鋭い人物である。

 彼は仙術を使って月宮殿から飛び出すと、背中に背負っていた得物を抜く。それは槍のようでいて、穂先を剣のように尖らせた長柄の武器――西洋版の薙刀で、グレイヴと呼ばれるもの――で地上から放たれた矢を容易く斬り落としてしまった。


「おい管制室、聞こえるか。こちらは検非違使少尉(しょうい)南茨木(みなみいばらき)為剣(ためあきら)だ」


 その男――為剣は通信札越しに管制室の二人、策也と一馬に向かって呼びかけた。


『み、南茨木少尉? 何故貴方が此処に?』


 策也はそう問いかけながらも、為剣の出現に僅かな希望を見い出した。それほど彼は、検非違使の中では有名な腕利きの戦士なのである。


「その辺りは後だ。お前らは最悪の事態に備えつつ、ギリギリまで月宮殿の結界回復に努めろ!!」


 そう叫びながら為剣は、月宮殿を護るように空の上に(・・・・)立っている(・・・・・)

 そして為剣は下を警戒していたが、直後、顔を前方に向ける。

 そこには、一人の女が立っていた。それも、頭が九つある巨大な雉の背に乗っている。真っ白な和装に身をつつみ、日本刀を手に微笑んでいた。


「はじめまして、為剣どの。ああいえ、それとも――お久しぶりと(・・・・・・)言うべき(・・・・)でしょうか(・・・・・)?」


 和装の女――御影(みかげ)信姫(しき)は穏やかな声で言う。その言葉に為剣は眉をひそめた。


「あぁ、誰だお前? お前みたいな小娘の知り合いは……たぶんいねぇぞ」

「おや、そんな風に若作りをしているから思い出せないだけではないのですか?」


 からかうように信姫は、口元に手をあてて笑う。

 しかしその眼は真剣で、為剣に対して一縷の油断もしていない。


「ま、そうかもな。じゃあ俺が忘れてるってことでもいいや。それでお前は――下から撃ってきてる奴の同輩か?」


 その問いに信姫は答えず、代わりに刀を振るう。

 二人の間合いは明らかに刀の届く距離の外で、信姫は少しも移動していないのだが、しかし白刃は距離を無視して為剣の喉元を裂こうとしてくる。

 為剣は空中を滑るように移動しながら、


「“剱境越克”か!! 若いのによく鍛えてやがる!! ああそれとも、見た目通りの齢じゃねえのか?」

「失礼ですね、貴方と一緒にしないでください」


 そう言いながら信姫は九頭の雉に乗って移動し為剣との距離を詰める。

 信姫が刀を振るう。為剣はそれをグレイヴの穂先で受け止めた。そして両腕で力を込める。その膂力に負けて信姫の体はあっさりと吹き飛ばされた。

 信姫はしかし九頭の雉の上から振り落とされることはなく、九頭の雉は空中でドリフトするように弧を描いて反転して、また為剣に向かっていく。

 体勢が崩れた信姫は隙を晒しており、追撃の好機だった。しかし安易にそれをしないのは、下手に動くと地上からの射撃が虫の息の月宮殿にトドメの一撃を撃ち込んでしまうからだ。

 なので為剣は信姫に何度攻撃され、それを容易く弾いて信姫が隙を作っても動くことをしない。


「なるほど、安易な誘いには乗ってもらえませんか」


 信姫は笑みを浮かべているが、その額にはうっすらと汗をかいている。対して為剣は無表情だった。


「ではこれはどうですか? “鬼名(きめい)解魂(かいごん)”――」


 その言葉に為剣は反射的に前に飛び出してしまった。

 そして、地上から矢が放たれたのを為剣は感じ取る。しまったと思いつつ、為剣は全身に力を止めて前に進もうとする体を強引に止めた。

 そのまま体を捻り、グレイヴの先端で矢を弾く。

 しかしその時には、手遅れだった。

 強引に体を捻って、信姫に背を向ける形になったその時、為剣は月宮殿の更に後ろにある月が血のような赤で染まっているのを見る。


「“枯れ落ちなさい”――飛花(ひか)落葉(らくよう)


 そして――信姫を中心として枯れた桜の花弁が為剣を包みこみ、やがて二人の姿はこの場から完全に消えてしまった。

 そして地上から、六射目の矢が放たれる。

 もはや守り手もなく、防護結界の再構築もまだ終わっていない月宮殿は、その一矢で核である“月の心臓”を撃ち抜かれて、完全に機能を停止した。


 **


chapter3“moon castle falling”

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