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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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judgement of dogfight_2

 格技場での義華の説教が終わると、広利は逃げるように帰っていった。

 日輪と陵は弓道部の片付けが残っているからといって弓道場へ戻っていった。

 そして仁吉と泰伯は――格技場の真ん中で、二人並んで大の字で寝転がっていた。


「……つ、疲れた。今日は本当に散々な一日だったよ」


 仁吉は心身ともに疲れ切っている。行儀が悪いとは自覚しているのだが、どうにも体を起こせないでいた。


「そうですね。色々と、ご迷惑をおかけしました」


 泰伯の声も鈍い。

 仁吉に迷惑をかけたことと、それが理由で義華に怒られたことがまだ尾を引いているのだ。


「しかし、夙川先生は厳しいな」


 自分の許しを得るまで剣道部に出入りするなと言われた広利は、そのまま何も言わずに去っていった。

 仁吉は意を決して、さすがに処遇が厳しすぎるのではないかと義華に言ったのである。泰伯は謝罪をすればお咎めなしなのに、広利への罰だけが重いと感じたからだ。

 しかし義華は、


『池田くんはこれまでにも色々と他人に迷惑をかけていますからね。真面目な生徒と素行の悪い生徒を平等に扱っては、真面目にやっている子たちに示しがつきませんので』


 と冷たく言い放った。


『真面目にしている生徒。真面目に頑張ろうとしている生徒には、手を差し伸べるのが教師の仕事です。しかし、他人の忠告に耳を傾けず、誰かの迷惑を顧みずに奔放に過ごしている人間には――いつかその報いが訪れると教えてあげるのも教師の仕事だと私は思っていますので』


 義華の言葉は正しい。しかし、正しすぎて薄情だと仁吉には感じられた。

 もちろん、真面目に生きている人間が軽んじられて、不真面目な人間を立ち直らせることだけが教育だと振る舞うような教師はどうかと思う。

 しかし――真面目に生きるということはとても難しい。

 人間には心があって、時に感情の奴隷だとさえ思ってしまうほどに生まれ持ったそれに振り回されて生きていかなければならない。そして、間違いを間違いだと気づいた瞬間には何もかも手遅れになっているのではないかと、そんなことを仁吉は考えていた。

 もっとも、そんなことを考えている当の仁吉は、少なくとも周囲からは真面目で勤勉な生徒、という部類に思われているのだが。

 そして仁吉のそんな思考をよそに泰伯は留飲が下がったというような、嫌味交じりの明るい声で言う。


「忠言は耳に痛く、良薬は苦いものですよ。あとはあいつに、それを痛みや苦みだと思う感覚があるかどうかです」

「お前的にはどっちがいいんだ?」

「別にどちらでも、というところですね。あいつが今までのことを詫びて、心を入れ替えて真面目になるというのなら明日にでも僕はあいつと友達になりますよ。ただ、今までが今までだったのでそういう期待をしていないだけです」


 その言葉は、期待してみたいという願望の裏返しにも受け取れる。

 しかし仁吉がその感想を口に出さない。

 だがそこに、面倒そうだから言わないでおこうという心理はなかった。

 仁吉はぼんやりと窓から外を見る。今は夕方の五時くらいだが、五月の空はまだ明るい。


(もう、今日は早めに帰って寝るか?)


 そんなことを考えていた仁吉は、不意に、窓の外に信じられない光景を見た。


「ところで先輩。もう、立ち合いはいいので今からラーメンでも食べに行きませんか?」


 位置的に窓の外が見えない泰伯は呑気な声でそう言った。


「――それどころじゃない。外に出ろ茨木!!」


 仁吉は真剣な口調になり、体を起こし外に出る。

 その様子から只事ではない何かが起きたのを察した泰伯も俊敏な動きで立ち上がり仁吉の後を追った。

 そこで二人が見たものは、現実とは受け入れがたいものだった。

 巨大な火の玉が、夕焼けを塗りつぶすほどの輝きを放ちながら学校の裏山へ落ちようとしていたのだ。

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