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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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judgement of dogfight

 そして現在、格技場では泰伯、仁吉、日輪、陵の四人が、剣道部顧問であり風紀委員の顧問でもある体育教師――夙川(しゅくがわ)義華(よしか)の前で正座していた。

 唯一、広利だけはポケットに手を突っ込んで立っている。義華はそれを咎めることはしない。


(くそ、延利の弟め……。そういうのは、度胸があるって言わないぞ)


 しかし義華の無言が場をいっそう重くしていることに違いはなく、仁吉は胃をキリキリとさせている。

 他のメンバーも心境は似たようなものだ。

 ちなみに正座は義華が強要したわけでなく、義華はただ、そこに一列に並びなさいとしか言わなかった。しかし誰からともなく、気づけば広利以外の全員が横並びになって正座をしていたのである。


「ではそうですね。まずは――南方くん」

「……はい」


 鷹の前の雀という表現すら生ぬるいほどに仁吉は萎縮している。

 ちなみに義華は、陵と広利が喧嘩をしたことを知っている。たまたま見かけた生徒が職員室に知らせに走り、それで義華がここに来たのだ。

 そして仁吉、泰伯、日輪の三人で止めたということも日輪の口から説明済みである。しかし義華は、真っ先に仁吉を名指しした。

 そして漂う雰囲気は、どう考えても喧嘩の仲裁をしたことを褒めるというような空気ではない。


「何故、茨木くんと池田くんを二人にしたのですか?」

「……それは、喧嘩した経緯を聞く、とのことだったので。同じ剣道部同士だからと……」


 仁吉はしどろもどろで、義華を直視出来ていない。


「なるほど。では、その時の茨木くんは冷静に話し合いが出来そうな状態でしたか?」

「それは……いえ、感情的になっていたと思います」

「ならば貴方が代わりに池田くんに聞くなり、その場に付き添うなりの配慮をすべきですね。喧嘩の仲裁をしたのはよいことですが、貴方はこの中では最高学年なのですから、引き受けたからには中途半端はせず最後まで責任を持ちなさい」

「……はい。すいませんでした」


 正論である。仁吉には体を縮こまらせて謝ることしか出来なかった。


「次に今津くん」

「……はい」


 名指しされて陵は、仁吉のように萎縮してはいないが、それでも神妙な態度である。


「喧嘩自体、いいことではありませんが、終わったことをあまり掘り返しては止めてくれた南方くんたちに悪いですからね。なので、この場で仲裁に入った三人にお礼を言うように」


 そう言われて陵は、正座したまま膝で動いて少し下がり仁吉、泰伯、日輪のほうを見る。


「南方委員長、茨木副会長、そして日輪。自分の不始末で迷惑をかけて申し訳ない。そして、仲裁に感謝します」


 陵は手を床について頭を下げた。物言いも堅苦しいが、そこには誠意がある。

 それを見て取った義華は陵にはもう何も言わず、次に――顔に少し怒りを浮かべ、声を鋭くして泰伯と広利に言った。


「それで――茨木くん、池田くん。先に竹刀を取ったのはどちらですか?」

「……すいません、僕です」


 泰伯は正直に答えた。そして言い訳がましいことは一言も口にしない。


「防具も身に着けず、竹刀一本で戦うのは剣道ではありません。暴力です。それが分からない貴方ではないと思っていたのですが?」

「――軽率な行動でした」

「ならば、池田くんに謝りなさい」


 厳しい口調で言われて、泰伯は大人しく広利のほうを見た。そして陵がしたように、床に手をついて広利に頭を下げる。

 その謝罪を見届けた義華は口調を柔らかくして、諭すように泰伯に言う。


「もう一人、謝らなければいけない相手がいますよ。わかりますよね?」


 泰伯は顔を上げて頷く。そして仁吉のほうを見てから、もう一度、深く深く頭を下げた。


「――南方先輩。先輩の好意で二人きりにしていただいたのに、軽々しいことをしてしまい申し訳ありませんでした」


 その声、頭を下げる姿勢には広利に謝った時よりも深刻さがある。

 泰伯にとっては、自分の軽挙妄動を責められることよりも、そのせいで他人が叱責されたということのほうが耐え難かった。

 まして相手は、泰伯が尊敬してやまない仁吉なので泰伯の自責は深い。仁吉は決して言いはしないが、もし腹を切って詫びろと言えば躊躇なくその通りにするだろう。


(必要なことではあるんだろうが……夙川先生も性格が悪いな)


 仁吉は、口には出来ないが、そう思った。


「……もういいよ、頭を上げろ茨木」


 絞り出すように、しかし努めて平静を装い仁吉は言う。それは首を絞められているような心地だった。


「まあ……僕は、気にしてないよ」


 どう言うべきかと考えて、出てきたものはとても無難でありきたりな言葉だった。しかし泰伯はまだ頭を下げ続けている。


「……そろそろ顔を上げろよ。何度も同じことを言いたくはないからな」


 そう言われて泰伯はおずおずと頭を上げた。その顔はやはり深刻そのもので、今にも自分の首を刎ねてしまいそうな見ていられない恐ろしさがある。

 仁吉はそんな泰伯を見ているのが嫌になって、日輪にフォローを頼んだ。日輪が泰伯に言葉をかけているその間に、義華は広利を見る。


「さて、池田くん。貴方はどうですか? すべきこと、誰かに言わなければいけないことはありますか?」

「……特には」


 広利は苛立ちを浮かべて短く返す。

 義華は一度、短く息を吐いた。そして、


「そうですか。では貴方は今後、私が許可を出すまで剣道部の活動の参加を禁じます」


 冷たい声で義華はそう言った。

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