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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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afternoon dogfight_4

 喧嘩になった経緯を聞くため、という名目で格技場の中に広利を連れて来た泰伯だが、その言動は荒々しい。

 広利の胸ぐらを腕を強く握り、容疑者を連行する警察官のような強引さで広利を引っ張っている。


「離せよ、クソが」

「言われなくても離してやるさ。お前が大人しく事の次第を教えてくれればな」

「先に手ぇ離せよ柔男(やわおとこ)!! それともなんだ、取り押さえてなきゃ怖くて俺と話も出来ねぇか!!」


 広利は挑発するように鼻で笑う。

 その態度に苛立った泰伯は、舌打ちしながらその手を離した。


「誰がお前なんか怖がるもんか。思い上がりもほどほどにしないと恥をかくぞ。そうでなくてもお前は、恥を垂れ流しながら生きているんだからな」

「思い上がりだと? 俺との勝負をずっと避けて来てる奴がよく言うぜ」


 広利はまた見下したように言う。

 広利はたまに部活に顔を出すと泰伯に立ち会いを挑んで来るのだが、その度に泰伯は断っているのだ。

 中学の時には何度か立ち会いをしたことがあり、その結果はすべて広利の勝ちだった。しかし高校に上がってから、泰伯は何を言われても頑なに断っている。

 それを勝てないと諦めたのだと思って、広利は泰伯のことを侮ったような態度を取るのだ。


「避けてなんかいないよ。お前なんかと勝負する価値がないからやらないのさ。お前なんかが同じ部にいるというだけでも耐え難いのに、何が悲しくて対等の相手として見てやらなきゃならない? 僕はそこまで自分を貶めたくはないね」


 泰伯は話しながら、冷静になれと自分を戒め続けている。しかし顔は自然と怒りを噴出させようとしてくるし、言葉から棘が抜けることはない。

 泰伯は広利のことが嫌いだ。人間として軽蔑している。喧嘩をよくし、部活はサボってばかりで、そんな自分を恥じる素振りすらない。そして、そんな相手だからこそ、安い挑発に乗って心を乱されるなど馬鹿げたことだと――理性ではそう分かっている。


「なるほど、つまり負けるのが嫌だってことか。俺より下だとはっきり自覚したくないんだろ?」


 しかし、我慢ならないと思う気持ちも確かにあった。

 まして今は広利と泰伯しかいない。

 普段、部活動の場であれば他の部員の目があるので乗らないような挑発に泰伯はつい乗ってしまった。


「そこまで言うなら――はっきりとさせてやろうじゃないか」


 泰伯は声を低くして、壁に掛けてある竹刀を二本、手に取った。そしてそのうち一本を無造作に広利に投げつける。


「お前と試合なんかしてやらないが、好きに打ち込んで来いよ。ああ――面だけは取ってこいよ。お前みたいなのでも、失明までさせると後味が悪いからな」

「なんだと!?」


 今度は泰伯が挑発する番である。泰伯のそれは、相手を見下して扇情的な言葉を使うのは同じだが、泰伯は上辺だけは冷静だ。


「ああ、僕の分は持ってこなくていいぞ」

「むしろ、お前こそつけたらどうだ? 大怪我してから俺のせいにされたらたまらないからな」

「お前は本当に愚かな奴だな。ここまでくると怒りを通り越して憐れみすら感じるよ」


 泰伯はそう言って目を伏せると、わざとらしい大きなため息をついた。その態度に耐えかねて、広利は竹刀を振り上げて泰伯に駆け寄る。

 無論、泰伯のその行動は挑発だ。

 目を伏せながらも泰伯は広利の足を注視しており、動き出したタイミングは把握している。そして迎え討つべく竹刀を構えて一歩踏み出したところで――。

 がらりと、格技場の鉄扉が開いた。

 それだけならば二人は止まらなかっただろう。

 開いた扉の方から、剣を喉元に突きつけられたような鋭い気配を感じ、本能で足を止めた。


「――何をしているのですか? 茨木くんに、池田くん?」


 そこには、剣道部顧問の夙川義華が立っていた。

 そして感情を顔に出さぬまま、目だけに怒りを現して二人を見ている。

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