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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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afternoon dogfight_2

 今津(いまづ)(りょう)

 弓道部の二年生であり保健委員会の副委員長でもある男子生徒だ。

 どちらかと言えば寡黙で無愛想な性格であり、人付き合いを積極的にするタイプではない。

 泰伯との接点としては委員会会議で顔を合わせるか、部活終わりに軽く挨拶をするくらいである。

 しかし少なくとも、喧嘩をするような性格ではなさそうだ、とくらいには思っていた。


「クッソあの馬鹿広利(ひろとし)!! 喧嘩なんて学校の外でそのへんの不良とでもやれよな!!」


 珍しく泰伯は口が悪い。

 そして、横で走っている仁吉も苛立っていた。


「剣道部はどんな指導をしてるんだよ茨木!!」


 仁吉は委員会で陵と親しくしており、泰伯以上に陵は荒事と無縁だと知っている。そして広利の名前を聞いて、前に仁吉に相談してきたクラスメイトの池田(いけだ)延利(のぶとし)の弟だと言うことを思い出す。延利曰く不良とのことだった。

 不良同士で揉める分には自由だが、弱い者いじめをしているとなると看過出来ないし、ましてその矛先を向けられているのが信頼している副委員長なのだから仁吉の怒りは尋常ではない。


「指導も何も、ほとんど籍置いてるだけの幽霊部員ですよ!! 言葉も通じず触れもしない相手をどうやって指導しろって言うんですか!?」


 これまた珍しいことに、泰伯の仁吉への口調が荒い。同じ剣道部というだけで広利の素行不良を責められるのは理不尽だと思っているからだ。


「チッ、そいつはとんだ悪霊だな――」


 二人は悪態をつきながら格技場へと急ぐ。

 しかし二人は日輪が、喧嘩、と言ったことを正しく理解していなかった。

 広利の素行不良と陵の性格から、広利が陵を一方的に痛めつけているものだと思っていたのである。

 そんな二人が駆けつけたその時、格技場の入り口にある掃除用具入れのロッカー目掛けて弓道着の男子生徒――今津陵が、髪を金髪に染めた目つきの悪い男子生徒――池田広利を蹴り飛ばしているところだった。


「おい、さっきまでの威勢はどうしたんだ破落戸(ごろつき)?」


 底冷えしそうな醒めた声に怒りを乗せて、陵が倒れ込んだ広利を見下ろしている。広利の顔はあちこち腫れ上がっており、衣服も乱れている。顔だけでなく、全身を何度も殴られるなり蹴られるなりしたということだ。

 しかし陵のほうも無傷ではない。殴られた後があり、眉のあたりが切れている。そしてそこから流れる血を拭おうともしていない。


「んだとテメェ、これで勝った気になってんじゃねぇぞこのド低能!!」


 広利はすぐに立ち上がると陵の胸ぐらを掴んでその顔を殴る。陵は意に介さず、近寄られたのをいいことにそのまま広利の鼻頭に頭突きを食らわせた。


「俺が低能ならお前は無能だろう? 才能もなく、知恵もなく、意気地まで無い三下のくせに、よく恥をさらして生きていられるものだな」

「お前みたく女々しい奴に言われたかねえよこのゴミクソが!!」

「クソはお前のほうだろう? それも、肥料にすらならないような金魚のフンめ」


 二人は互いに、聞くに堪えないような罵詈雑言を並べながら殴りあっている。その光景に仁吉と泰伯は唖然としていた。


「……あれ、陵くんだよな?」

「……だと思いますよ。というか、僕より先輩のほうが付き合いはあるはずでは?」


 陵が、二人の印象のそれとあまりに違いすぎて困惑しているのだ。

 しかし、遅れて追いついた日輪は呆然と立ち尽くしている二人を咎めるように、早く止めてくれと叫んだ。


「……あ、ああ。そうだね、ごめん日輪」


 泰伯は日輪の叫びで我に返る。


「まったく、何がどうしてこうなったんだ!?」


 仁吉は苛立ちながら叫ぶ。その疑問に日輪は、


「後で説明するので、とりあえず止めるのを手伝ってください!!」


 と言う。

 そして泰伯と仁吉、日輪でまず二人を引き離すことにした。泰伯は背後から広利を抱え込み、仁吉と日輪で左右から陵の腕を掴んで動きを止める。

 しかし、泰伯に抑えられて動けなくなった広利の顎を目掛けて陵は思い切り前蹴りを食らわせた。

 仁吉が制止の声を掛けても陵は落ち着くことなく、仁吉と日輪を振りほどこうといっそう暴れ出す。


「この野郎!!」


 激情した広利は背後の泰伯に肘打ちを食らわせて怯ませると拘束から抜け出し、両手を抑えられている陵のみぞおちに蹴りを叩き込んだ。


「やったな、この張り子馬の幇間野郎め!!」

「なんだとこの――恥晒しの負け犬が!!」


 蹴られて完全に頭にきた陵は、凄まじい力で二人を振りほどくとそのまま広利に掴みかかる。そしてまた泥沼の殴り合いとなった。

 取り付く島の無くなった三人はその様子を眺めている。


「……どうする、水でもかけるか?」


 日輪は目を細めて言った。正直、それで止まるとは思っていないのだが、他に何も思いつかなかったのである。

 しかしその提案に泰伯は、


「――いや、ありかもね。水」


 というと近くにあった掃除用のホースを取り、蛇口をひねって水を出して二人に掛け続けた。バケツか何かで水をぶっかけても二人は止まらなかっただろうが、ホースからじゃぶじゃぶと、そして延々と水を掛け続けられると流石に気が散る。

 二人は思わず手を止めた。

 そして、広利は苛立ちながら泰伯に向かってくる。

 その前に仁吉が立ちはだかり、広利の足を払った。転んだのを見るやいなや、広利の右手首を掴み近くの壁に押し付けて動けなくする。


「よし、今のうちに陵くんも抑えろ!!」


 仁吉は叫んだが、しかしその時には陵は落ち着きを取り戻したようで、もう広利に向かって行こうとはしなかった。

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