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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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afternoon dogfight

 仁吉と泰伯は手合わせをするために中庭から格技場へ移動している。

 途中、泰伯は中国古代史について仁吉に熱弁していた。


「ジャンルとしてマニアックなのは理解していますが、面白い時代ですよ。小説ならば宮城谷昌光氏がオススメですが、漫画でも横山光輝さんの作品から入ると分かりやすいと思います」

「お前はどこで沼に落ちたんだよ?」


 手合わせに付き合うと言った手前、その道中で無言なのも気まずいので仁吉は無難に受け答えはしている。

 その淡白さを泰伯は、自分の話すジャンルへの興味の希薄さから来るものだと思っていた。


「僕は横山さんの漫画ですね。親父……父の部屋にあった『項羽と劉邦』と『史記』を読んで夢中になりまして」

「『項羽と劉邦』って、司馬遼太郎じゃなかったか?」

「ええ、司馬遼太郎も書いてますよ。もちろんそちらも名作ですし、大好きなんですが、この界隈に引き込まれる契機になったという意味で横山さんの『項羽と劉邦』は特別なんですよ」

「横山光輝か。そういや僕は、全く触れてこなかったな。『三国志』もついぞ読まずじまいで、ついさっきまた嫌いになった」

「え、先輩……三国志読んだことないんですか?」


 泰伯は驚愕の表情を浮かべた。


「無いよ、悪いか?」


 有紀にしつこく三国志を推された記憶がまだ新鮮な仁吉は苛立ちの声をあげた。


「……いえ、まあ個人の自由だとは思いますが」

「が、なんだ?」

「その、まあ……死ぬまでに一度くらい読んでみませんか? いえ、もう漫画でもゲームでも何でもいいので」

「……そのうちな。ついさっき、三国志を読んだことがないと言っただけで義務教育を受けてないとか非国民だみたいな言い方を言外にされたせいで、軽く三国志アレルギーなんだよ」


 一度解放されたと思ったら、思わぬところで再び布教をされたせいで仁吉は辟易としていた。

 そして仁吉の言い方で泰伯は思い当たったことがあり、仁吉に聞いた。


「……もしかしてそれ、千里山先生ですか? 図書委員長のお姉さんの」

「……なんだ、知り合いか?」

「資料室の講習ですよね? 僕も前に受けたのでその時に面識がありまして。でも、あの人はその……三国志オタクとしても、熱量が……まあ、尋常じゃないので……」


 泰伯はかなり言葉を選んでいる。


「まあその、少なくとも三国志好きの全員があんな風ではないので……」

「……そうか」


 泰伯の言い分は理解出来る。

 どんな界隈、どんな集まりにも押しの強い人間はあて、しかしすべての人間がそうだというわけではない。

 しかしそれはそれとして、最初にあった相手が悪かったと仁吉は思わざるを得ない。


「で、手合わせするとは言ったけどさ」


 三国志のことを考えるのが嫌になって、仁吉は半ば強引に話題を変えた。


「格技場で竹刀と徒手で手合わせとかしてたら怒られないか?」


 仁吉の指摘に泰伯はハッとなった。


「……そうですね。とりわけ、夙川先生に見つかろうものなら」

「やめろよお前!! あの顔が担任っての本当にキツいんだぞ!!」

「……発言はヒドい気がしますが、言いたいことはわかりますよ」

「なんだよ、お前もしっかりとトラウマになってるじゃないか?」


 そう言われて泰伯は苦笑した。

 仁吉は冷めた目で泰伯を見つつも、少し安心したような気分になった。


(こいつも人の子か――)


 仁吉は泰伯のことが嫌いで、似た感性など持ちたくないと思っている。しかし今、自分が凰琦丸にトラウマを覚えたように泰伯もそれを感じているということに不思議な安堵を覚えたのである。


(勝手だな、僕も。蛇蝎のごとく嫌っているくせに、他の誰にも共有出来ないことだけは共感して欲しいだなんてな)


 自分の身勝手さと浅ましさに、仁吉は一人毒づいた。

 そしてそんな仁吉の思いなどつゆ知らず、泰伯は会話を続ける。


「まあ、そうですね。なら裏山とかにしましょうか? ですが、竹刀だけは取りにいきたいので一度格技場にだけは行かせてください」

「わかった」


 というわけで二人は格技場のほうへ向かう。

 しかし近づくにつれて変な騒ぎ声が聞こえてきた。

 そして泰伯にとってはよく知る相手であり、仁吉にも見覚えのある相手が血相を変えて走ってきた。


「――ああ、泰伯か。ちょうどいい所にいたな。それと…南方先輩、でしたか?」


 二人のところに走ってきたのは日輪(ひのわ)だった。そして泰伯は、日輪の顔が未だかつて見たことがないぼどに決死せまるものだったので困惑している。


「ど、どうしたんだい日輪?」

「その、格技場の前で喧嘩が起きていてな。すまないが仲裁を手伝ってくれないか?」


 そう言われて泰伯は仁吉のほうを見る。


「先輩、手伝ってもらえますか?」

「……別にいいが、誰だよこんな昼間っから? いや、どうせ左府のやつあたりか?」


 その言葉に日輪は首を横に振った。


「剣道部の広利(ひろとし)と――」


 池田広利。剣道部の問題児の名前が出た途端、泰伯は頭を抱えてため息をついた。

 午前の部活動に広利は来ておらず、部活をサボって今頃に格技場の前で喧嘩などしていることに呆れたからだ。

 そして、


「ウチの(りょう)だ」


 次に挙がった名前に二人は驚愕の表情を浮かべ、格技場のほうへ全力で走り出した。

Q「宮城谷昌光さんの作品でオススメは?」

泰伯「“楽毅”か“孟夏の太陽”ですかね」


広利についてはep156、157で名前が出てきてますね。本人は出てきていませんが

陵はep151「infirmary」で登場しています。見直されたい方は↓リンクからどうぞ


ep156「juvenile delinquent」

https://ncode.syosetu.com/n8192ji/156

ep151「infirmary」

https://ncode.syosetu.com/n8192ji/151

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