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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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awry oneway respect_2

 仁吉は泰伯のことが大嫌いである。

 人間の相性が致命的に悪いのだ。

 しかし泰伯は仁吉のことを慕っており、そんな態度を取る泰伯を煩わしく思った仁吉は泰伯に、自分の前に顔を出すなと言ったのだ。

 そして泰伯はすんなりとそれを受け入れた。

 仁吉はその言葉を撤回したいと言ったのである。


「僕としては嬉しいんですが、どうしてですか?」


 嬉しいという反応自体が仁吉にとってはそもそも気に入らないのだが、言い出した手前、答えないわけにもいかず顔を歪ませながら口を開いた。


「……いつ不八徳絡みの事件が起きるかわからないだろ。だから……業腹だが、また前みたいに共闘する必要があるかもしれないし、情報共有する必要もあるだろうさ」


 仁吉は心の底から仕方なく、必要に迫られて、という苦渋に満ちた顔である。

 しかしそんなことなど泰伯は歯牙にもかけない。

 それよりも、


「そう言ってもらえると光栄です」


 と、泰伯にとっては仁吉から頼られたという結果だけで嬉しいのだと言わんばかりに顔を喜色で染めていた。


「……お前はさ。その、僕のことをなんだと思ってるんだ? 買いかぶってるか勘違いしてると思うぞ?」


 仁吉はついそう言ってしまった。

 言えばまた面倒な話になると自覚しながらも、言わずにはいられなかったのである。


「そんなことはありませんよ。先輩が御自分のことをどう思われているかはわかりませんが、僕にとっては尊敬に値する人です。それはこれから先、何があっても変わりません」


 そして泰伯は一縷の迷いもなくそう断言した。

 その眼は真剣そのものであり迷いがない。そして、仁吉の自己評価よりも自分の信頼のほうが正しいという傲慢さえ伺える。


「先輩は真面目で、そして自分に厳しい方だからそういう風に思われるのかもしれません。ですが、そういうところも含めて僕は先輩をずっと尊敬していますよ。それは先輩には迷惑で鬱陶しいものなのかもしれませんが、僕が世辞や追従でそう言っているとだけは思わないでください」


 泰伯は真っ直ぐに仁吉の目を見て言った。

 仁吉は泰伯への嫌悪や苛立ちを隠そうとしない。泰伯はそれを自覚しながら、それでも揺らぐことなく仁吉への尊敬を口にしている。


「……僕はお前のそういうところが――」


 呟くような小さな声で仁吉はそう言った。

 その言葉も、その先も、泰伯には聞こえない。

 そして代わりに、


「……そうか」


 と短く返した。


「あ、ところで先輩」


 仁吉がそんな複雑な心持ちでいる間に泰伯はもう感情を切り替えたらしく、真面目ではあるが軽い口調で話しかけた。


「……なんだよ?」


 まだ感情の鎮静化の出来ていない仁吉は、声に尖りがある。


「この後、時間があるなら手合わせしていただけませんか?」


 そう言う泰伯は、話しながらいつの間にかカップラーメンを食べ終えてスープまで飲み干しており、ゴミを片付けている。


「は?」


 手合わせ、という言葉に仁吉は耳を疑った。

 互いに武道を習っている身ではあるが、仁吉は合気道で泰伯は剣道である。他流試合というにも無理があるだろうと仁吉は思った。


「いえ、前に雲雀丘(ひばりがおか)さんに、徒手の剣士を投げ伏せるのは、と言われたことがありまして」

「……投げられるようなことをしたのか?」


 何をしたのだろうかと気になりながら、仁吉は前に龍煇丸から聞いた話を思い出す。

 仁吉にとっては表向きは真面目な泰伯は、親しいクラスメイトとつるむと、学年中から『四馬鹿』とあだ名される程度には馬鹿なことをしでかすらしい。

 つまり悪友とつるんで何かをしたのかと仁吉は推測した。


「……いえまあ、それは誤解ですぐに解けたんですが、雲雀丘流には対武器の教えがあるのかと思うと気になりまして」


 泰伯は少し気恥ずかしそうな顔をした。

 不躾なことを頼んで悪いという気持ちと、好奇心に抗えなかった気持ちが入り混じっているのである。


「ですが流石に、女の子にこんなことを頼むわけにもいかないので」

「もし紀恭(ききょう)にそんなこと言おうものなら、僕は真剣にお前の骨を折るぞ」


 そう言いながら仁吉は、自分と紀恭が同門という話を泰伯にしただろうかと思う。

 しかしそこは、まあ紀恭がしたのだろうと一人で解釈した。

 そして当の、泰伯の頼みに仁吉は、


「……まあいい。付き合ってやるよ」


 と答えた。


「ありがとうございます。じゃあ、これ食べたら格技場に行きますか」


 泰伯はスクールバッグから取り出した、食後のお菓子らしきものを食べている。黒いグミのような形状の食べ物だ。

 それを見て仁吉はあることを思った。


「なあお前。それってもしかして……」

「あ、先輩も食べますか? サルミアッキっていう外国のお菓子なんですけど、僕は割と好きなんですがどうも友人には不評でして」


 やっぱりそうかと、仁吉は心の中で思った。

 仁吉は食べたことはないが話に聞いたことはある。曰く、世界一不味いお菓子だと。

 しかし製造地である北欧では伝統的な菓子であるという話も知ってはおり、食わず嫌いは良くないと思い仁吉は、


「……一つ、もらおうかな」


 と声を震わせて言った。

 そして、やや逡巡しながらも意を決して口にして――。


(うわ、マジで不味いなこれ。少なくとも日本人の口には合わないだろ)


 これに関しては、風評が正しかったのだと思い知った。

 しかし泰伯は、仁吉の顔色から好みではなかったということは察しつつも、


「僕は好きなんですけどね、この独特の味わいが」


 と涼し気な顔で言った。


(もしやこいつ、舌が馬鹿だな?)


 仁吉はそう理解した。

Q『ところでブギーポップシリーズだとどの巻が好きですか?』

仁吉「……“ハートレス・レッド”か“エンブリオ”かな? ブギーポップ以外なら“ビートのディシプリン”だね」

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