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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
208/387

awry oneway respect

 泰伯は生徒会の打ち合わせが終わると、中庭のベンチに座り遅めの昼食を取っていた。

 といっても、普段は茨木家の弁当は玲阿が作っているのだが今日は玲阿も部活あるので弁当はない。

 休日なので購買部も開いておらず、泰伯が食べているのは家から持ってきたカップラーメンだ。お湯は魔法瓶にいれて持参している。


「わびしい昼飯だな」


 そう声を掛けたのは仁吉だ。

 仁吉も先ほどまで図書室で本を読んでいるうちに時間のことを忘れており、遅めの昼食となったのである。


「南方先輩!!」


 仁吉の顔を見て泰伯は明るい声を出した。

 その元気の良さがどうにも、親が迎えに来てくれた時の子供や飼い主に駆け寄る犬のような無邪気さで、仁吉は心底うんざりとした。


(やっぱり、声掛けたのは間違いだったな)


 自分から話しかけたくせに仁吉は早くもそのことを後悔していた。

 しかし今さらそんなことを考えても遅い。

 別に今から立ち去ったところで泰伯は何とも思わないだろう。嫌われるならそれはそれで仁吉の望むところではある。

 しかしそうするのも癪なので、諦めて仁吉は泰伯の横に座った。

 仁吉の昼食はコンビニで買ったサンドイッチとアイスコーヒーだ。とりあえずサンドイッチを袋から出して食べ始める。


「ところで先輩はどうして学校に? 委員会の用事ですか?」


 泰伯はにこやかにそう聞いてくる。

 仁吉はしかめ面をしたまま、


「いや、ちょっと別の用事があってな。さっきまで図書室にいたよ」


 と素っ気なく返す。


「先輩ってどういう本が好きなんですか?」

「……色々だよ。ライトノベルから今どきの小説、古いものまで何でもだ。その時の気分次第だよ」

「意外ですね、ライトノベルとか読むんですか?」

「いいだろう、別に。『ブギーポップ』シリーズが好きでな。知ってるか?」


 そう聞かれて泰伯は首を横に振る。


「まあお前こそ、漢文ばかり読んでいそうだよな」

「漢文というか、中国古代史とか神話の本とかが多いですね。でも最近はあまり読めてませんよ。色々と忙しいので」


 まあ部活動と生徒会を両立していればそうなるか。

 そう考えたところで泰伯は思い出したように聞いた。


「ところでお前、蔵碓と話はしたのか?」


 話とはもちろん、検非違使や不八徳のことである。


「一応は。検非違使のほうは、無理はしないようにと釘は刺しましたが……たぶん無駄だと思います」

「……そうか」


 泰伯は申し訳なさそうな顔をしたが、仁吉はまあそうだろうと諦めている。


「不八徳については聞いたこともない単語だと仰ってましたね。一応、崇禅寺にある書庫で探してみるとは言ってくださったのですが、今のところ手がかりはないそうです」

「……あそこか」


 仁吉は空を見上げて目を閉じた。


「入ったことあるんですか?」

「……子供のころにな。そんで、鍵が壊れてて扉の建付けが悪くて閉じ込められたことがある」

「出られたんですか?」

「出られてなければ今ここにいないよ」


 真顔で言う仁吉に泰伯は、それもそうかと頷く。

 素で言ってたのかこいつと、仁吉は泰伯を睨んだ。


「まあ、どうにかこうにか出られたんだよ。だけどどうやって出たのかよく覚えてないんだ。たぶん崇禅寺の誰かが助けてくれたんだろうけど、怖かった記憶しかなくてな」

「子供のころのトラウマなんてそういうものですよ」

「なんだ、お前にもあるのかそういうの? 心臓に毛が生えているような性格のくせに」


 皮肉を込めて仁吉は言う。

 しかし皮肉は通じず、しかも泰伯は深刻な顔になった。


「……はい。昔、乗ってた船が難破したことがありまして」

「……僕が悪かったよ」


 ポツリポツリと、低い声でそう語りだした泰伯に仁吉はすぐに謝った。


「……すいません、この話はやっぱりやめていいですか? 思い出すと今でもしんどいので」

「いいよ別に!! 話せなんてつもりで言ったんじゃないよ!!」


 幾ばくかの悪いという気持ちと、聞いたら面倒くさそうだという理由で仁吉は必死になって止めた。

 泰伯にとってもこれは、たとえ相手が仁吉だとしても話しにくい内容であるらしく、仁吉に制止されて少しほっとした顔になった。


「というか僕は、別にお前と雑談するために話しかけたわけじゃない」

「ああ、何か用事ですか?」

「……そうだよ。ほら、前に僕、お前に言ったろ。僕の前に現れるなって。それを撤回するって言おうとしたんだよ」


 その言葉を聞いて、泰伯はまた表情を明るくした。

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