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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
201/387

it's elementary

 五月三日の昼ごろ。

 泰伯もまた部活動で学校に来ていた。

 といっても今日の練習は午前中だけであり、練習が終わると部員たちは各々帰ったり学校である他の用事をしにいったりという感じだったのだが、泰伯はまだ格技場に残っていた。


「どしたのタイハク、帰んないのか?」


 泰伯をタイハクと呼ぶ、剣道部員の二年生仲間の賀路(ひろみち)は、練習が終わっても剣道着を着替えず格技場の端で正座して黙想をしている泰伯を不思議そうな目で見つめた。


「いや、今日はもう少し残ろうかと思ってね」


 それ自体は賀路にとってもそこまで不思議がることではない。泰伯は時おり練習後も居残って素振りをしていることはあるのだ。

 しかし今の泰伯は特にそういう風にでもなく、ただ正座しているだけである。それが賀路には気になっていた。


「なんだ、座禅みたいなことでもやるのか?」

「座禅ではないけれど……精神統一という意味では近いのかな? というよりも、追想だね」

「なんだそりゃ?」


 賀路はますます分からなくなってきた。


「この前、凄く強い人と戦ってね。その人の技の冴えがとても――まあ、凄くて」

「はぁ」

「それで、どうにかその高みに近づきたいと思って、こうしてその時のことを思い出そうとしているんだ」

「なんだよタイハク、まだ強くなりたいの?」


 賀路は感心するような、同時にどこか呆れたような声を出した。

 泰伯は既に剣道部の中では部長である信姫に次ぐ実力だ。それは普段の練習から見て取れる腕前と、大会での結果から部の誰もが認めていることである。

 この上さらに強くなろうとする向上心はすごいと思う気持ちと、そこまで躍起になるのかという気持ちが半々だった。


「まあ、目指して悪いものじゃないだろう」


 泰伯は無難な言い回しをした。

 今までの泰伯だとしても、向上心そのものは常にあった。しかし宝珠を手にし、不八徳や八荒剣の存在を知った今では、強くなりたいの次元が違う。

 しかしそんなことはもちろん賀路には言えないので、こういう言い方になったのだ。

 義華に言われたように、竹刀を持たずに稽古をするというのも毎日行っている。しかしどうも、そこからどうすればいいのかがわからない。義華の言葉を疑うのではなく、自分が義華の意図を正しく理解していないように思えてならないのだ。

 そんなところに、部長である信姫がやってきた。


「おや、茨木くんはいつも熱心ですね」


 たおやかな笑みを浮かべて立っている。

 賀路は一瞬だけでれっと気の抜けた顔をして、すぐに真面目な顔つきになり、信姫に挨拶をした。


「稲野くんも、そんなに堅くならないでください。それで、茨木くん――」


 信姫はまっすぐに泰伯を見つめる。

 穏やかな表情はそのままなのだが、その視線がとても鋭くて、そして何かを問いかけてくるようだった。

 真剣を突き付けられているような心地であり、泰伯は思わず息を呑んでから返事をした。


「あなたの言う強い人には遠く及びませんが、私でよければ、少し指導してあげましょうか?」


 信姫はそう言った。


「それは、そう言っていただけるのは光栄ですが……。僕、戦った相手の話まではしていませんよね?」


 泰伯は信姫が、泰伯の思っている相手に及ばないと断言したのが気になった。

 しかし信姫はくすりと笑った。


「私とはたまに手合わせをしているでしょう。まだ多少、私のほうが強いかというくらいです。なのにそんなことなど考えもしなかった泰伯くんが、今は瞑想をしてまで追随したいと言う相手ならば、私など足元にも及ばないほどの達人なのでしょうと思ったまでですよ」


 そして自分の推理を口にする。

 そう言われればそうかもしれないと思いながらも、まだ泰伯には引っかかるところがあった。

 しかし、


「それで、どうしますか? 私、午後から用事がありますので早めに決めていただけるとありがたいのですが」


 と言われたので、


「わ、わかりました。よろしくお願いします!!」


 と頼み、その疑問について考えることはなかった。

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