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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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diviner in the library_2

 五月三日。ゴールデンウィークの初日。

 学生が休みを謳歌し、あるいは部活動に性を出しているその時に、仁吉(ひとよし)は学校の図書室にいた。

 前に仁吉は学校の図書室に、文献的価値のある郷土史料がある資料室があることを図書委員長の千里山(せんりやま)早紀(さき)から教えられた。

 そして史料の管理のために定期的に訪れる学芸員の指導を受ければ生徒でも入室可能という話を聞いて、その指導を受けてみたいと早紀に言ったのである。

 そして次に学芸員が来るのが今日なので、休日にわざわざ学ランを着て学校に足を運んでいるのだ。

 そしてその学芸員の先生――丸メガネを掛けたスーツの女性はというと、


「三国志はいいよ君。ええっと、ミナミカタくんだったかい? まあ今の時代、三国志ほどのメジャージャンルとなると逆に間口が広すぎてどこから入ればいいか分からないというのは分かるよ。だけどそういう時は原点に回帰すべきさ。つまり、吉川英治か横山光輝だね。やはりこのどちらかこそが三国志入門編と呼ぶに相応しいと私は思うわけだ。しかし無論、入門編と聞いて侮るなかれだよ。原点にして至高とはこの両作のためにあるような言葉であり素朴で純粋ながらひたすらに面白く日本における三国志文化のルーツを語る上で欠かせないものであり――」


 延々と、三国志について熱弁していた。

 発端は資料室について粗方の説明をされた後、ふと学芸員の先生――早紀の姉でもある千里山有紀(ゆき)が仁吉に、


『ところで君、三国志だと誰が好きかな?』


 と聞かれ、仁吉が三国志を読んだことがないと言ったことである。

 その回答を聞いた途端、有紀は宇宙人を見るような理解しがたい言動だと言わんばかりの目で仁吉を見つめ、異文化理解を図るかのように三国志について語り始めたのである。

 仁吉は早紀から有紀について『三国志が恋人の変人』と聞かされてはいたのだが、実際の有紀は仁吉の予想を越えていた。


「え、えーとあの、千里山先生? 資料室の文献史料の取り扱い指導の続きは?」


 仁吉は必死になって話題を逸らそうとする。

 しかし有紀は、


「ああいいよそれは、だいたい終わったし。君はしっかり者みたいだから心配はなさそうだ。それよりも三国志だよ三国志。活字が苦手ならとりあえず横山光輝の漫画版から読むといいさ」


 と、本来の目的であるはずの資料室についての説明を些事と言わんばかりに切り捨てた。

 そのあまりの本末転倒ぶりに、


(この人、三国志の布教のために高校来てついでに学芸員の仕事してるんじゃないだろうな!?)


 などと真剣に考えていた。

 有紀は正真正銘、学芸員の資格を持ち定期的に坂弓高校の資料室に出入りして史料価値の高い資料室の文献の管理を任されている人物なのだが、この三国志への並外れた熱を前にして仁吉はその人間性に疑いの目を向けていた。


(なんというか……。さすが、千里山さんが変人と言うだけのことはあるな……)


 口には出さないが仁吉はそんな、早紀にとって失礼なことを考えていた。


「あー、その……。さ、三国志ですか。まあその……気が向けば、どこかで読んでみますよ」


 仁吉は目を泳がせながら曖昧な返事をした。

 その時に資料室の扉が開き、早紀が呆れたような顔をして有紀を見ている。


「姉さん。そろそろ私、中津先生に真剣に掛け合って担当変えてもらうよ?」

「えー、少し雑談してただけだよ。多めに見てよ早紀ちゃん」


 妹に迫られて真剣にそう返す有紀を、仁吉は物珍しそうな顔で見ていた。仁吉にも妹はいるのだが、


(うちはこういう微笑ましいやりとりはないよな。まあ、自業自得なんだろうけれど)


 などと考えていた。


「まあ、とにかくミナカタくんが困っているだろう? 資料室の講習が終わったなら雑談はそのあたりにしておきなよ」

「えー、少しくらいいいじゃない」

「……どのあたりが少しなんですか?」


 仁吉はうんざりとした顔をしている。


「姉さんの少しは普通の人のたくさんなんだよ」


 早紀は冷静に言った。

 そして不服そうな顔をしている有紀から仁吉を引き剥がして図書室の外へ出る。


「すまないね、うちの姉はああいう人なんだ。変人だろう?」

「……そうだね。正直、読んだことはないけれど三国志が嫌いになりそうだよ」


 仁吉は素直にそう言った。


「まあ、別に読みたくもないものを無理に読む必要はないさ。私もそんなに好きじゃないしね」

「お姉さんに勧められたりしないのかい?」

「もちろんされるさ。だから一応は読んだとも。けれど最初に読んだものを、そこから入るのは邪道だのなんだのと言われて喧嘩して、親から家庭内での三国志布教禁止令が出たんだ」


 どうせならば家の外でも布教禁止令を出して欲しかったと、有紀の三国志押しに辟易させられた仁吉は思った。

 好きなものを人に教えたいという心情は理解出来るのだが、その熱が過ぎると相手は食わず嫌いを起こしてしまうもので、今の仁吉はまさにそういう状態である。

 そんなことを考えていた時に、ふと仁吉は思った。


「そういえば千里山さんはああいう押しの強い推薦とかしないよね?」

「されたら嫌だというのはあの姉から教えられたからね」

「なるほど……」

「まあ、しかし三国志好きというのもみんながみんなああというわけではないよ。押しの強い厄介ファンというのはどの界隈にもいるものさ」

「まあ、それはそうだね」

「まあ、姉の回し者というわけではないけれど、もし三国志のことをしっかりと説明して欲しいなら茨木くんにでも聞くといい。仲良いんだろう?」


 急に泰伯の名前を出されて仁吉は、苛立ちをそのまま早紀に向けないように必死に取り繕った。


「なんだ、仲悪いのかい? 彼を舎弟のように連れ歩いていると聞いたけれど?」

「……一度、委員会の用事で彼のクラスに行っただけだよ」


 その時の泰伯との話題の中では生徒会長である蔵碓の話もしているので、仁吉の説明は全くの嘘というわけではない。

 とにかく仁吉は不快感から早紀に八つ当たりしないよう、努めて平静な口調で話した。


「……というか、千里山さんは、茨木、と親しいのかい?」

「普通だよ。彼、たまに三国志関連の書籍を借りて行くからね。それで一度、図書室で三国志本の特集をした時に手伝ってもらったんだが、その説明が分かりやすくてさ」


 それを聞いて仁吉は思った。


(じゃああいつ、なんでエビスだ何だのの説明あんなに下手だったんだよ?)


 そう考えると苛立ちが増すので、仁吉はそれ以外考えるのを止めた。

資料室の話が出たのはep.29「diviner in the library」ですね。その時の話を確認したい方は↓リンクからどうぞ

https://ncode.syosetu.com/n8192ji/29


キャラクタープロフィール更新しました。今日は「西山天王山覇城、千里山早紀」です。

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