prologue0 “indispensable to be titlerole”
その生に 運命を背負い
その魂に 呪いを纏い
その心に 狂気を宿す者にのみが
座すことを許されし席
「っかー!! いい、いいよ!! ねえよっちゃん、今週もサイコーだったよ」
「玲阿は本当にジャンプが好きじゃのう」
「てかさーてかさー、ジャンプが激アツなのはわかっけどさー、レアチって基本的に何読んでも主人公推すよねー。いや、それがいいとか悪いとか言いたいんじゃなくてさ」
「ま、珍しいといえば珍しいのかもしれんの。人気投票の度に主人公が一位を取り続ける漫画というのは案外ないし、主人公というのは、どうしてもキャラとして手堅く収まってしまうところがあるからの」
「えー、だって……いいじゃん、主人公!!」
「うーむこれは性癖のごり押しかの?」
「お、なんだやんのか推し論争!? ちなみにあたしは自分を悪人だと思って主人公と対立しつつも最後の最後で悪に成りきれずに主人公とかヒロイン庇って死ぬタイプの敵幹部が好きぜ!!」
「おぬしもおぬしで結構ねじ曲がっとるの!?」
「えー、でもさ。……主人公推しとけば、とりあえず死別はないじゃん?」
「……理由、それなのか?」
「フッ……推しは、死んだその瞬間から永遠になるんだよ。だからあたしは、離別の涙に耐えながら、心に墓標を増やしていくのさ……」
「何言っとんじゃおぬし」
「私は……漫画やアニメでも、好きな誰かと別れるの嫌かな。けどさよっちゃん、本当に、それだけじゃないからね!! こう、なんていうのかな? 主人公にしかないような、主人公だからこそ持ってるような魅力ってのがあるんだよ」
「でもさでもさー、最近は主人公って一口に言っても色んなタイプいるよね。バトル物で絞っても臆病だったり内気だったり、不良な感じなのもけっこう多いかな? でもレアチはだいたい何読んでも主人公推すけど、共通項って何かあるのかね?」
「そう言われると……なんだろ?」
「共通項というか……そうじゃの。主役の条件というのであれば、一つは言えるぞ」
「何?」
「人として、壊れておることじゃ」
「はい?」
「よっちゃん、具体的な説明ヨロ」
「つまりの、自分の身の安全とか命とかを他人や世界と天秤にかけて、最終的に他人や世界を選べる精神性、ということじゃ」
「でもそれって当たり前のことじゃない?」
「漫画やアニメじゃそうじゃろうとも。じゃが、命がかかった場面でそれを言える人間なんてそうはおらん。人間も所詮は動物じゃからの。しかし創作においては、それが出来ることが最低ラインとしてある」
「ま、そりゃそうだけどさー」
「そして創作においても、主人公というのはえてして過酷な運命を背負い、過剰な自己犠牲を選び、それでいて、それらの苦しみを一人で背負おうとする。自分が過酷な運命に挑むのはよくても、仲間が苦しむことを拒絶する。そして、痛ましいお前は見ていられないと、自分を思いやる仲間を、信念という名の熱で炙って自分の蛮勇を正当化する。これが破綻者でなくて何だというのじゃ」
「あのさーよっちゃん。それ、だいぶ穿った見方じゃね?」
「そうかの? しかし主人公というのは、誰よりも重いものを背負いながら歩く者に据えられる。ならばその道筋を歩める者は、人として破綻しておるのであろうよ」
「わかるような、わかんないような……。よっちゃんの話はたまにすごく難しいよね」
「ま、これはこれで面倒くさいオタクの与太話と聞き流すがよい。玲阿は玲阿のまま、好きだと思ったキャラを推してゆけばよいのじゃ」