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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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光芒を夜空に曳き、参宿と天狼星の間に消える_2

 夜中の射撃戦から一夜が明け、今日は五月三日――祝日である。

 蒼天は無理が祟ったのかまた熱がぶり返してしまい、朝から布団で寝ている。

 それでも蒼天は、昼過ぎには部屋を出て学校へ忠江のことについて調べに行こうとしていたので、悌誉はかなり厳し目にそれを窘めた。

 蒼天はかなり食い下がっていたがやがて諦めたように布団に戻る。


「とりあえず、今日は寝ていろ。忠江ちゃんの手がかりになるかはわからないが、あの射手について分かることがあるかもしれないから、とりあえず調べてくるよ」

「し、調べる……? どうやってじゃ?」

「私に転生鬼籙(てんせいきろく)のことを教えてくれた……知人がいるんだがな」


 知人、と言う時に悌誉はとても複雑そうな顔をした。しかし蒼天は熱のせいでその変化に気づかない。


「そいつ曰く、時おり、“宝珠”と“鬼名”を持つ者が集う時代があり今がそうだとのことだ。中国の歴史や神話関係の本を漁れば分かることもあるだろう」

「まあ、その知人とやらが誰なのかは置いておくとしてじゃの。歴史はともかく、神話もなのか?」


 蒼天にはそれが疑問だった。

 “鬼名”の“鬼”とはつまり中国古代における文明人から見た(えびす)――蛮族のことであり、それはつまり中国から見た周辺諸民族への蔑称だ。

 なので歴史について調べるというのは理解出来るのだが、神話までが含まれるというのが蒼天にはどうも分からなかった。

 そして悌誉も釈然としない、という顔をしている。


「見当外れなのかもな、とは私も思うよ。しかし、あの射手が何者かが転生した存在で、それが中国に関わっているとすればだ――あれだけの技量の射手は限られてくるだろうからな」

「……まあ、おそらくの」

「少なくとも、お前と(ゆかり)のある“彼”は違うと思うぞ。お前に矢を射掛けてくるというのはおかしいし、私も話していて心が乱れることはなかった」


 悌誉はそこで少し不思議な言い回しをしたが、悌誉の指す“彼”が誰のことなのかはすぐに分かったのでため息をつく。


「……悌誉姉の魂って楚人(そひと)センサーなのか?」

「……あまり良くはないがな」


 つまりその“彼”は楚――蒼天の前世、荘王の国であり、悌誉の前世、伍子胥にとっての仇である。そして悌誉の中の伍子胥の魂は楚に対して激しい憎しみを抱いており、その憎悪は時代を超えて楚国にまつわる者すべてに向けられているのだ。


「えー、でも余のこと気づかなかったではないか?」

「……そう言われると、信憑性がないような気もするな」


 悌誉は先ほどの自分の言葉に急に自信が無くなってきた。

 しかし自分の魂の信憑性は置いておくとしても、悌誉には一つ手がかりがある。

 それは犾治郎の言った『射日(しゃじつ)の弓兵』という言葉だ。

 悌誉は中国史や中国神話について詳しいわけではない。自分の前世である伍子胥の時代あたりであればある程度は分かるが、それ以外の知識はまばらである。

 神話についてはなおいっそう門外漢であり、わからないことのほうが圧倒的に多い。

 しかしそんな悌誉であっても『射日の弓兵』と言う単語を聞けば思い当たることがある。しかしそれと(えびす)が結びつかないのだ。

 それが自分の知識不足なのか、それとも知識の通りなのかを確かめるために悌誉は調べに行くと言ったのである。


「まあ、とにかく今日は安静にしておけ。どうせ今日からまた連休だ。休み明けに学校で話を聞いても遅くはないだろう」


 そう言って悌誉は出ていった。

 向かう先は坂弓市の総合図書館である。

 坂弓高校の図書室も蔵書数としては、市立の高校としてはかなりの物だがやはり市営のものには劣る。まして中国史や中国神話となるとジャンルとしてかなりマニアックな部類に入るため悌誉は総合図書館のほうへ行くことにしたのだ。

 そして部屋に一人残された蒼天は――。


「よし、行ったの」


 悌誉が外出し、戻ってくる様子がないのを窓から確認すると、布団を抜け出しいつもの黒セーラー服に着替えて学校へと向った。

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