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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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以火佐攻者明

 学校の裏山で猪の怪物と対峙している悌誉は現在、ひたすらに逃げ回っていた。

 猪の怪物は大きさがダンプカーくらいはあり、漆黒の体をしている。動きは単調で、直進しか出来ないようなので躱すだけならばそう難しいことではないのだが――。


(くそ、とにかく堅いな!!)


 その体は鋼のようだった。

 悌誉は突進を避けざま、何度か破荊双策の先端についた刃を放ってはいるのだが傷一つつかない。


「ならこれだ!! 孫家(そんか)攻式(こうしき)五火之変(ごかのへん)”」


 悌誉が右手を猪の怪物のほうへ向ける。その手の平から炎が現れ、球状になって猪の怪物の頭部目掛けて放たれた。

 炎の球が爆ぜ、粉塵が起こる。しかし粉塵が晴れたその直後には、猪の怪物は何事もなかったかのように平然としていた。

 そしてまた、悌誉を見据え凄まじい勢いで突進してくる。

 技を撃つために足を止めていた悌誉は一瞬反応が遅れた。慌てて地面を蹴って横に跳んだが完全には避けきれず、体の端が猪の怪物と触れた。

 それだけで悌誉の体はピンポン玉のような軽さで吹き飛ばされる。何メートルも飛ばされたところで手近な木に鎖を巻き付けて勢いを殺しようやく止まった。

 猪の怪物が突進を繰り返し周囲の木々をへし折っていたおかげで木に激突することはなかったが、そうでなければあばらか背骨が折れていたかもしれない。


「まさに猪突猛進だな。それも、これだけ体が硬ければ十分脅威というわけか」


 猪の怪物は足を止めるとまた悌誉のほうを見る。

 鼻息を荒くして後ろ足で地面を蹴っているのは突進の準備をしているのだろう。またすぐに次の攻撃が来るであろうことは容易に想像がついた。

 悌誉は走り、まだ木々が折られていない場所へ入る。そこで猪の怪物を睨んだ。

 猪の怪物が突進してくる。

 その軌道上に立ち、両手に持っている破荊双策を周囲の木々のほうへと放つ。

 破荊双策は一定距離であれば悌誉の意思で自由に動かすことが出来る。その能力を利用し、猪の怪物の突進の軌道上に四方八方から鎖を、蜘蛛の巣のように張り巡らせた。

 猪の怪物は躱すこともせず鎖に絡め取られる。しかしなおも地面を蹴り前進を繰り返そうとしている。

 そして恐るべきことに、鎖ではなく、それを固定している木々のほうが猪の怪物の剛力によって根本から抜けそうになっていた。

 しかし、時間は稼げた。

 悌誉は破荊双策を手放し両手を前に差し出す。


「火計に五有り、火人、火積、火輜、火庫、火隧

 火攻に時有り、箕、壁、翼、軫

 これ即ち四宿

 将に火を以て攻めるの時日(じじつ)なり――」


 差し出された両手の当たりに風が起こる。

 そしてその手の平の中心には先ほどよりも大きな火の玉が生み出されていた。


孫家(そんか)攻式(こうしき)天燥風起(てんそうふうき)五火之変(ごかのへん)”」


 叫びとともに悌誉の手から火の玉が放たれる。まさにそのタイミングで猪の怪物は鎖を振りほどき突進してきたところだった。

 しかし火の玉を受けて、初めてその足が止まる。

 頭部に命中した火の玉は、猪の怪物の顔の半分を吹き飛ばしていた。

 今悌誉が使ったのは、最初に使った“五火之変”の強化版である。悌誉の使う術式には詠唱無しで名前だけを呼べば発動させられるものと詠唱を必要とするものがある。そして基本的に詠唱を必要とするもののほうが威力が高い。

 “天燥風起・五火之変”は詠唱を必要とするものであり、起きる現象は同じなのだがその威力はおよそ五倍になるのだ。

 しかし当然ながら、必要とする魔力もその分多くなるので乱発は出来ない。また、詠唱している間は隙が生まれるという問題もある。

 なので、可能ならばこれで決着にしたい。

 そんな悌誉の期待を裏腹に、猪の怪物はまだ闘志を燃やしている。一つだけになった目をギラギラと滾らせて悌誉を睨み、突進してきた。

 それも先ほどよりも速く。


孫家走式(そんかそうしき)拙速(せっそく、)”!!」


 悌誉は術式を使い移動速度を上昇させてその場から逃げ出す。

 “拙速”は拙く速くの文字通り、走る速度は向上するのだが走っている間は足しか動かせないという制約がある。相手に欠損を負わせ追撃を仕掛けるべきこのタイミングで逃げに徹するのは不本意ではあるが、止むを得ない。


(どうもこいつには、痛覚とか攻撃に怯むとか、そういう感覚がないらしいな。それどころか凶暴性に拍車が掛かっている。さて、どうしたものか――)


 逃げ回りながら、悌誉は次の方針を考えていた。

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