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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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凡戦者、以正合、以奇勝

 学校の裏山に居るその射手は、二の矢で悌誉の心臓を射抜いたと確信した。

 心臓に矢は命中し、そこから水風船が弾けたように血が飛び散る。矢は悌誉の体に刺さったままであり、悌誉は楯を落としながら矢を掴みつつ千鳥足で家の壁へ歩いていく。

 射手はその頭部目掛けてさらに矢を放つ。しかしそれは間一髪で命中せず、家のコンクリート塀に突き刺さっただけだった。


『――死んだか?』


 射手は自分の弓の腕前に自信がある。そして、目が飛び抜けてよい。

 間違いなく放った矢は悌誉の心臓に命中したという自負があり、命中し血が噴き出たところもこの目で見た。

 しかしまだ油断はせず、蒼天のほうを注視しつつも悌誉のほうも警戒していた。

 そうしているうちに蒼天が遮蔽物から出てくる。

 悌誉が飛び出す気配はない。射手はすかさず蒼天目掛けて矢を放つ。蒼天は楯を弾かれながらもすぐさま次の楯を生成し、どうにか難を逃れて次の遮蔽物のところへと歩を進めた。

 しかしこれで射手には、楯を生成する能力を持つのは蒼天だけだということも分かった。

 それからも蒼天は飛び出し、そして射手の矢に晒される。悌誉は動く気配はなく、ずっと家の壁に姿を隠している。

 射手は、悌誉を警戒の対象から外すべきか少し迷った。ここまで動く気配がないのが死んでいるからなのか、あるいはそう思わせるための策なのか判断しかねたからだ。

 しかし心臓に命中したということだけは射手には絶対の自信があり、ここまで動かないというのもまた不自然だと思う。

 これまで何度か射手は蒼天を狙い、蒼天は辛うじて急所だけは防いでいるが腕や足に矢が当たっている。

 そして蒼天は、それらの負傷はそのままだった。

 射手は傀骸装の存在を(・・・・・・・)知っており(・・・・・)、遮蔽物に身を隠している間に換装しなおせるという可能性も考慮に入れている。

 なのに蒼天がそれをしないのは、傀骸装を使えないか、魔力に余裕がないと判断した。

 そして悌誉のほうがそれを知らないはずもないと見ている。

 二人が合流後してから暫く、遮蔽物に隠れて出てこない時間があった。あの時に作戦会議をしていたとすると、そのあたりのすり合わせはしていて然るべきだ。

 蒼天が負傷をどうにかする術が無いのならば、悌誉は動けるのであれば多少の無理を押してでも動くはずである。結果、移動が出来なくとも蒼天のほうへ向く矢は減るのだから。

 そう考えて、射手は悌誉を警戒するのを止めた。

 仮に悌誉が生きていたとしてもここから距離を詰めるには時間がかかるし、動く影があればそれを見逃すほど射手の目は節穴ではない。

 それよりもまずは確実に蒼天の急所を射抜くことを優先すべきだと判断した。

 そう考えている間に蒼天がまた移動を始める。楯に命中しても次の楯を生成することはなく矢の深く突き刺さった楯をそのまま構えて走っている。続く二の矢を全く同じところに当てて楯を破壊しても、楯を作り直すことなく両腕で顔と胸を庇いながら頭から滑り込みつつ次の遮蔽物のところへと移った。

 しかしその、体が完全に隠れる直前に射手は矢を放ちふくらはぎに当てた。

 そして悌誉は全く壁から出てこない。

 射手は完全に標的を蒼天一人に絞り、その動きに注視した。しかしここから蒼天は動かなくなった。


『足をやられたのだから、慎重になるのも当然か――』


 射手は動かなくなった標的を、しかし焦れることなく見つめている。次に動きがあればその時こそ確実に射止める。その決意を胸に、弓に矢を(つが)えながらその時を待った。

 そして待つことおよそ十分ほど。

 蒼天が隠れていた家の壁からわずかにその赤毛が姿をのぞかせた。しかしまだ堪えている。

 赤毛が揺れる。そして蒼天の頭の半分が飛び出たその瞬間。射手は狙いを定めた。

 蒼天の体が飛び出す。その手にはもう楯さえ持っておらず、先ほど足を射抜いたので動きも鈍い。

 そして、既に射手と蒼天の距離もそれなりに縮まっているので、先ほどまでなら貫通させることの出来なかった硬度でも今なら一矢で貫ける。

 例えここから楯を作られてもそれを貫いて蒼天の急所を射抜ける。そう思い射手が矢を射ようとしたその時だった。

 矢から手を離す瞬間に弓が無理やり、あらぬ方向へと引っ張られた。矢は地面に勢いよく飛んでいく。

 それは――悌誉が破荊双策で射手の弓を鎖で掴み引っ張ったのが理由だ。


「腕はいいが――駆け引きは下手だな、貴様」


 悌誉は挑発するように言った。

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