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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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小敵之堅、大敵之擒也

 悌誉は蒼天を鎖の鞭――破荊双策で縛って手繰り寄せると、矢の飛んできたほうを警戒しつつ蒼天を見た。


「話を聞いて追いかけてくれば……何でいきなり狙われてるんだ?」

「それは、余も聞きたいの」


 蒼天は少し苛立ちながら言った。

 悌誉はそんな蒼天を落ち着かせるように、敢えて違う話題を振る。


「ところでさ、玲阿ちゃんのあれ、なんだ?」


 あれとはもちろんサヤのことである。

 しかし蒼天はわざとらしく肩をすくめて、


「さあの。そっちも、余も聞きたい疑問じゃ」


 と答えた。


「というか、悌誉姉に対してどんな態度じゃった?」

「普通に礼儀正しくていい人だったぞ。わりと親しげだったし」

「ふむ。余はどうも嫌われておっての。余の時代ではないらしいが楚のことが嫌いじゃと言っておった」

「楚に恨みを持つ女性か。それなりにはいそうだが」


 悌誉は少し深刻な顔をする。


「玲阿の見た目で喋っとるから女性らしく見えるが、輪廻転生とかが関わっとるとすれば性別なんてアテにならんじゃろ?」

「……そうだな」


 前世は男でありながら、今は女子高生に生まれ変わっている悌誉はその言葉を否定出来ない。

 そして言った蒼天もまた前世は男なので、悌誉にかけた言葉の説得力は一際高い。


「ま、サヤどのは今のところ玲阿には無害じゃ。なのでそれはよいのじゃが――」


 言いながら蒼天は壁の端からほんの少しだけ顔を出す。その瞬間に矢が飛んで来て蒼天の鼻先をかすめた。


「現状をどうするか、じゃの」

「いきなり狙われた、という認識でいいんだな?」


 悌誉の最初の問い――何故狙われているのかというそれに対して、蒼天の答えを咀嚼して悌誉はそう判断した。蒼天も静かに頷く。


「うむ。それも、忠江の家の跡地を調べている最中にの」

「ああ、やっぱりあれ、忠江ちゃんの家だよな? 更地だから私の記憶違いかと思ったぞ」

「ふむ、つまり悌誉姉も忠江のことは覚えとるんじゃな?」

「覚えてるさ。こないだ強引に『HOT LIMIT』踊らされてヘトヘトにされたからな」


 その反応に蒼天は心の中で安堵した。


「ということは、やはり何か異能関係のことに巻き込まれた可能性が高いの」

「……そう考えたほうがよさそうだな。玲阿ちゃんが忘れてるだけならまだしも、家ごとなくなっているのはおかしい」


 二人は険しい顔つきになった。


「だが、それはそれとしてだ。相手はかなり凄腕だぞ」

「それは見ればわかる」

「何せ、学校の裏山から(・・・・・・・)撃ってきてるん(・・・・・・・)だからな(・・・・)


 冷静に分析する悌誉の言葉を聞いて蒼天は目を見開いた。その反応に悌誉は驚いている。


「なんだ、気づいてなかったのか?」

「うむ。っていうかそれマジ?」

「矢の飛んでくる角度と方角もそうだし、このあたりで高い建物なんてないからな」


 蒼天たちが今いる場所の南西あたりに学校の裏山がそびえ立っている。坂弓高校はそのさらに南西にあるので、高校から狙っているという可能性はない。


「しかし、ここからじゃと距離は……」

「直線距離でも一キロはあるな。高さを考えるともっと長いだろう」


 悌誉は分析こそ冷静だが、その事実には肝を冷やしている。

 一般に弓の射程は長くとも四百メートルほどである。単純に倍以上だ。異能の力が関わっているとしても、一キロを一瞬で詰める手段などはなく、しかも傀骸装している蒼天の反射神経で避けるのがやっとという速さである。先ほどは悌誉に対してはまだ警戒されていなかったので鞭ではじき落せたが、今ならば、一矢を鞭で防いだ隙に次の矢が悌誉を射抜くだろう。


「あのさ悌誉姉。余、ついさっき二発で楯割られたんじゃけど? それも、一発目と二発目を寸分違わず同じ場所に射てきての」

「威力も精度もふざけてるな」


 悌誉は堪らず毒を吐いた。

 そして真剣な顔で蒼天を見る。


「どうする蒼天? ここは、退いたほうがいいと私は思うぞ」

「退くじゃと?」


 その言葉に蒼天は眉間にしわを作って悌誉を睨んだ。


「ああ。より正確に言うなら、このままここに隠れて朝が来るのを待つんだ。分が悪い、というどころじゃないからな」

「そこを、どうにか出来んかの? 悌誉姉お得意の『孫子』の力とかで?」

「『孫子』はそんな、奇跡を生み出すようなものじゃない。勝ち易きに勝ち、勝ち難きを避け、敵の十全を躱してこちらの最善を当てて倒す。そのための方策を書いたものだ」


 こと『孫子』のこととなると悌誉は冷静で諭すように言う。

 要するに、勝てない勝負はするなと言うことであり、今の二人に勝機はほとんどないと悌誉は見ている。いや、蒼天も感じていることだった。

 しかし蒼天は引き下がらない。


「じゃがの、今、余らを攻撃してきとる何者かは忠江と無関係ではない。それはわかるのじゃ。ならば多少の危険くらい背負わねばならぬ。悌誉姉が退くなら余は一人でも行くぞ!!」


 蒼天は頑なだ。

 悌誉はため息を吐いて、


「まあ、お前はそう言うだろうと思ったよ」


 と諦めを見せた。


「わかったよ。どうにか策を考える。だから、お前の手札を教えろ。今の体調で使えるものだけな」

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