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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
191/384

who is she?_2

 玲阿にそう聞かれて蒼天はまず自分の耳を疑った。しかしどうしても、玲阿が忠江のことを知らないと言ったように聞こえた。


「いや、忠江じゃよ。逆瀬川忠江じゃ。あの、人に変なあだ名をつけるのが趣味の騒がしい……」

「そんな子いたっけ?」


 玲阿は素の表情である。蒼天はそれを、信じられないものを見るような目で見ていた。


「ほら、食欲旺盛でたまに……しょっちゅうおかしなことを言う、余と同じくらいの背丈の……。というか、そろそろやめてくれんかの? 冗談じゃとしても少しタチが悪いぞ玲阿?」


 蒼天は必死になってまくし立てる。

 しかしやはり玲阿は、知らないフリをしているのではなく、本当にただ心当たりがないという顔をしていた。

 流石におかしいと思った蒼天は、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、


「――サヤどの」


 と静かな声で、玲阿の中に棲む未だ素性不明の女性に呼びかけた。


『なんだ馬鹿鵬(ばかどり)、気安く呼ぶな』


 その言葉と共にスイッチを切り替えるように玲阿の雰囲気が変わる。言葉にはトゲがあり、露骨な顰め面をしていた。


「……悪いとは思うが仕方なかろう? それで、話は聞いておられたかの?」

『……まあな』

「それで、サヤどのは忠江のことを覚えておられるか?」

『あのカエルになった女だろう? もちろん覚えているさ。あれのせいで、畏れ多くも楚王の車騎への陪乗を賜るという憂き目にあったのだからな』


 サヤは皮肉めいた言い方をした。しかし蒼天はそれを気にする余裕もない。


「ならば玲阿は何故覚えておらぬ?」

『さあな。私に聞くなよ。おおかたあの娘、何か厄介なことにでも巻き込まれたのだろうさ』


 サヤの口調は他人事のようで、突き放した言い方だった。


「厄介なことか……。正雀某の話によると、あれはおそらく忠江の前世の姿ということであろう。ならばそれ絡みかの?」

『なんでもいいが、玲阿を巻き込むなよ。知人が死んで玲阿が悲しむのならばそれを止めるために奔走するもやぶさかじゃないが、すっかりと忘れてしまってるんだ。それをどうこうしてやろうという気は私にはないぞ』

「ああ、サヤどのはそれでよい。これは余のやるべきことじゃ」


 そう言うと蒼天は服を寝間着から着替え布団から起き上がった。


『何処へいくつもりだ?』

「――調べ物じゃ。悌誉姉が帰ってきたら適当に言い繕っといてくれ!!」


 そう言うと傀骸装に換装し、突風のような速さで部屋を出ていった。

 まず向かった先は忠江の家である。

 忠江の家は涼虫荘の近くの住宅街の中にあった。しかし蒼天が記憶を辿って着いた場所は、すっかりと空き地になっている。

 不自然にそこだけ砂利がひいてあり、ロープが張り巡らされていた。

 もうすっかりと日は暮れている中で、蒼天はロープを乗り越えて敷地の中にはいった。

 そこは、まるで何年も前から空き地だったかのような風で、雑草が蔓延りところどころゴミなどが捨ててある。


(おかしいの。こんな住宅街の真ん中で、ここだけ何の利用もされずに空き地であるはずがない)


 普通ならば家を建てるか、駐車場として利用するなど活用する方法はいくつでもある。それをこんな風に遊ばせておくのは不自然だった。

 さらに何か手がかりがないか蒼天は、地面に這いつくばって目を凝らしながら探し回る。しかし手がかりらしきものは何もない。

 その時だった。

 何かを見つけたわけではない。

 蒼天は急に嫌な気配を感じた。首筋に刃物を突き付けられているような殺気である。

 本能的に蒼天は起き上がり楯を作って構えた。直後――楯に矢を射掛けられた。

 近くに誰かいる様子はない。少なくとも蒼天からは見えない。だが間違いなく、どこかに敵がいる。それが何者で、何故蒼天を狙ったのかまではわからないが。

 蒼天はすぐさまチャリオットを召喚する。人目など気にしていられる状況ではなかった。

 しかしすぐさま、チャリオットを曳く二頭の馬がその眉間を射抜かれて倒れる。蒼天は舌打ちしながら飛び降り、楯をもう一つ取り出して構えた。


(相当な凄腕のようじゃの。まさか“あやつ”ではなかろうが、それに匹敵する射手じゃ)


 どこにいるかはわからない。しかし矢の飛んでくる方向だけはわかる。

 ならばその方向へ進み、家の壁にピッタリと張り付けばひとまずどうにかなるだろう。そう考えて蒼天は楯を前に構えたまま走り出そうとする。

 しかし蒼天が一歩踏み出したその瞬間、矢が飛んできた。それは先程の一矢と全く同じ場所に当たり、刺さっていた矢を縦に割って楯に深く刺さったかと思うと、楯を持っていた蒼天の右手に突き刺さった。

 蒼天は痛みに耐えかねて楯を手放してしまう。

 さらに一矢。楯の無くなった隙を狙った一撃が飛んできたその時だった。


()け――破荊双策(はけいそうさく)


 その叫びと共に、耳をつんざくような甲高い破裂音がした。飛来した矢は宙ではたき落とされ、それと同時に蒼天の体は何かに縛られて壁のほうへ勢いよく引っ張られた。

 その壁は矢を射掛けて来た相手からは死角となり、ひとまず安全ではある。そこで腰を落ち着けて傀骸装を換装しなおした蒼天は、助けてくれた相手のほうを見て言った。


「命拾いしたぞ、悌誉姉」

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