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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter3“*oon *as**e *a*ling”
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an archer's regrets

私の罪を照らすから

私は 月を嫌う

 人は容易く、悔いはないと口にする。

 その一瞬、その刹那に総てを賭けても構わないと錯覚して無謀に走るのだ。

 なるほど、確かにその瞬間にはその思い、覚悟は本物なのだろう。

 しかし人は未来を見通す目を持たない。その一事を成し遂げれば後はどうなっても構わないなどと思えてしまうのは、その先に待つ苦しみや惨めさを知らないからだ。

 そして、一瞬の困難に全霊を注いで挑むことよりも、長きに渡って塗炭の苦しみに耐えることのほうがずっと辛いからだ。

 その苦しみに耐えきれなくなった時、人はかつての己を恨み、その決断を否定したいと手のひらを返す。

 不八徳の“彼”――逆瀬川忠江の内から現れた“(えびす)”もその一人だ。

 それは女々しい行為かもしれない。

 しかし、それを批判する資格は誰にもない。

 その過ちはどんな賢者や英雄でも――人の身を超越せし仙人であっても――時に犯してしまうものなのだから。

 そして、そんな悔悟さえ愚かだと悟ったその時には――。


 **


 三連休が明けた火曜日の朝。

 夏江蒼天は――高熱に苦しまされていた。


「あ、熱い……」


 体温計の表示は38度9分。頭に氷のうを置き、氷枕を使いながらも蒼天はずっと熱湯の風呂の中にいるかのような心地だった。


「大丈夫か蒼天?」


 悌誉が氷のうを取り替えながら心配そうにのぞき込む。


「や、悌誉姉……。余を南極に連れていってくれ」

「とりあえず医者には連れてってやろう」

「いやじゃ、医者など行きとうない!!」

「……子供かお前は」


 悌誉は呆れたような顔をしながら病院行きの準備をしようとして、ある事に気づいた。

 蒼天の保険証の場所を知らないということである。

 そもそも、二人が一緒に暮らし始めておよそ二年。その間、蒼天は一度も病気や怪我をしなかった。だから医者にかかることもなかったし、保険証の場所など気にしたこともなかったのである。


「おい蒼天、保険証どこだ?」

「そんなものはないの」


 熱にうなされながら、しかし力強く蒼天は言う。


「……お前、わかって黙ってたな」

「どうせ風邪なんかひかんと思っとったからの」

「それもそれだが、今まで気にしてなかった私も私だな……」


 悌誉は蒼天と、迂闊な自分に呆れていた。


「仕方ない、あまりよろしくないが私の保険証を使え。病院にいる間だけお前の名前は南千里悌誉だ」

「嫌じゃの!! たかが高熱ごとき、数日放置しておけばどうとでもなる!!」


 蒼天は一部の医者嫌いな病人特有の、根拠のない妄言を自信満々に言い放った。

 悌誉は軽蔑するような冷たい目で蒼天を見下して、


「そうか。ならば保険の効かない値段で薬を買ってくるとしよう。その薬代の分はお前の食費から引かせてもらう」

「え?」

「さあどうする? もうすぐゴールデンウィークだが、その間ずっと三食もやし生活するか大人しく医者にかかるか好きなほうを選ぶといい」


 冷淡にそう迫られて蒼天は、


「……医者行きます」


 と小さな声で呟いた。


「よし。しかし今回はまあ仕方ないとして、保険証のことは考えないとな」


 悌誉は調子を切り替えてまじめな顔で言う。


「……まあ、はい。なにせ今まで病気とは無縁だったんじゃがな。鬼の霍乱かの?」

「蒼天。それ、あんまり自分には言わないやつだぞ」


 悌誉はまた色々と病院に行くための段取りをしながら言った。

 そして、今日は悌誉も看病のため、学校は休むことにした。

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