dear my friend
琥珀は宣言通り、ピッチャーに残っていたビールを飲み干すと、もうそれ以上追加で酒を飲むことはなかった。
「さて、帰るとするか。悌誉、歩けるか?」
「……まあ、なんとか」
琥珀の問いかけに悌誉は疲れた声で返した。
「ならタクシー入り口まで頑張れ。私は玲阿を運ぶから蒼天と忠江は桧楯を支えてやれ」
そう言うと琥珀は玲阿に肩を貸して歩き出す。その足取りはとてもしっかりしていて、酔っ払いには見えなかった。
蒼天と忠江は桧楯を両方から支えながら感心している。
そうして六人が坂弓公園の入り口のあたりに着くと、そこには二台のタクシーが待っていた。表示は「迎車」になっている。
「私は玲阿と桧楯を乗せて行くから、悌誉は忠江だけ送ってやってくれ」
そう言って琥珀は悌誉にポンと一万円札を渡す。
「琥珀ちゃん、絶対にこんなにいらない」
「釣りは取っておけ。どうせあぶく銭だ」
そう言うと琥珀は桧楯と玲阿を乗せてもう一台のタクシーに乗り込み、タクシーは走り出した。
悌誉は有無を言わせず手渡された一万円札を見ながら、
「なあ蒼天。週明け、琥珀ちゃんにお釣り返しておいてくれ」
と蒼天に言った。
「……そじゃの」
蒼天も頷き、忠江と三人でタクシーに乗り込んだ。
そして目的地を指示したのだが、思っていた以上に忠江の家と悌誉たちの借りているアパート、「涼虫荘」は近くだったので忠江の家の前で三人とも降りることにした。
「あれ、ヨッチと悌誉さんの家もこの近くなんですか?」
悌誉と蒼天が同居していることを知らない忠江はそう聞いた。
蒼天は少し考えてから、
「あー、色々あって一緒に住んでての」
と言った。
忠江はそれを特に追及することもなく、そうなんだ、とだけ言った。
「ま、今日は楽しかったぜヨッチ。悌誉さんもありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう。私も楽しかったよ逆瀬川さん」
「うむ、余も楽しかったぞ。ではまた週明けじゃの?」
「機会があったらまた月曜くらいに遊ぼーぜ。レアチに連絡すっかもだし。あ、てか住所教えてよ。そしたらトツれるじゃん!?」
忠江に言われて蒼天はアパートの住所と部屋番号を教えた。
そして忠江は家の中へ入っていく。
「さて、余らも帰るとするかの」
「そうだな」
その背中を見送ると蒼天たちも自分の家へ帰ることにした。
そして翌日とその翌日も――蒼天と忠江が会うことはなかった。




