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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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bad with directions_2

 仁吉は坂弓公園の広い敷地をほとんど対角線上に進んで、ようやく龍煇丸を見つけた。

 龍煇丸は呑気にピザとポテトを食べながらくつろいでいる。


「おー、お疲れさま、先輩」

「……うっさいな。何をどうやったらあの短時間で迷えるんだよ? そんな遠くまでメシ買いに行ってたのか?」

「うんにゃ、さっきのラーメン屋の近くだったはず」

「じゃあなんでこうなる!?」


 仁吉は人目も憚らず叫んだ。

 先ほど、ラーメンを買って食べた時は二人の選んだ店は近くで、しかも仁吉のほうが先に買い終わったので龍煇丸の料理が来るのを待って二人でテーブルに移動したのだ。

 そのため龍煇丸の壮絶な方向音痴に気づかなかったのだが、そもそも、高校生が迷うという発想がなかった。


「いやだってさ、坂弓公園って広いじゃん?」

「広くてもこんな迷い方しないぞ……。ああいや、もう迷うかどうかは置いとこう。だけどさ、迷ったって自覚くらい持てよ!! 僕のほうが迷ったみたいな言い草してきやがって!!」


 ぶん殴ってやりたい。

 素直な心で仁吉はそう思った。


「まーそんな怒んないでよ。ごめんね先輩。ピザ食べる? ほら、お詫びにアーンしてあげるからさ」


 からかうように龍煇丸は言った。


「……いらないよ。というか、もう腹に入らない」

「なんだ、少食なんだね先輩って」

「お前は逆に、よくそんな食えるよな?」


 龍煇丸の前にはラージサイズと思しきピザが三枚と山盛りのポテトがある。しかもピザはどれも既に半分以上がなくなっていて、しかし龍煇丸はけろりとしていた。


「生きるってのは飯を食うってことだよ」


 どこか諭すような、教訓を伝えるような口調だった。


「否定はしないが、限度があるだろ」

「うん。だから別に無理に食ってるわけじゃねーよ。食べれるだけ食べてるんだ」

「……なるほど」


 その言葉の通り、龍煇丸は幸せそうにピザを頬張っている。無理をしている様子は微塵もない。少食な仁吉にはそれが少し羨ましかった。


「で、何の話だっけ? 先輩の好きな人の話?」

「聖火への口裏合わせだろ?」

「あ、キヨちゃんにはさっき話してあるよ。先輩のケーバン聞いた時に」


 そう言われて仁吉は、なんと言われたのかが気がかりだった。同時に、そんな体面を気にしている自分がみっともなくも思えた。


「ま、安心してよ。実際に話してみるとなんか趣味とか性格とか合わなさそうだった、くらいのことしか言ってないから」


 龍煇丸は軽い調子で言う。

 それは仁吉の懸念を見透かしたような、そして安堵させるような言い方だった。


「んでさ、ほら恋バナしよーぜ」

「……僕はお前がよくわからないよ」

「ああ何、フラれた直後によくこのテンション出来るなってこと?」

「……まあ、そうだね」


 即答だったし、その答えに迷いや未練はないのだが、それはそれとして断った身の仁吉は少し気まずそうである。

 しかし龍煇丸はそんな懸念など意に介さずに笑っていた。


「先輩に惚れたのはマジだぜ。けど、フラれたら引きずらないタイプなんだよ俺は。ああでも誤解しないで欲しいんだけどさ、付き合ったらちゃんと一途なつもりだよ」

「……そうか」

「お、何? ちょっと心動いた? フラれたら引きずらないとは言ったけどさ――今ならまだオーケーだよ?」


 龍煇丸はにやにやと笑っている。

 それは問いかけというよりも挑発的だった。


「……君とはどうも、性格や趣味が合わなさそうだ。悪いね」

「先輩ってけっこう皮肉屋さんだよね」


 形だけを見れば龍煇丸は同じ相手に一日に二度フラれたことになるのだが、そんなことは気にせず笑ってその言葉を聞いた。

 そして次の瞬間にはもう平然とピザに手を伸ばす。


「んでさ、先輩の好きな人ってどんな人なの?」

「まだその話するのか?」

「うん。恋してる自覚はなくても今自覚したんだからさ、なんか思い当たる相手とかいないの?」

「いないね」


 これは素直な本音である。仁吉には本当に何の心当たりもなかった。


「というか、僕も……君に聞きたいことがあるんだけど?」

「何、エロい質問?」

「……名前のことだよ。焱月龍煇丸って本名なのか?」


 龍煇丸の茶々をさらりと流して仁吉は聞く。龍煇丸はつまらなさそうに口を曲げながらもその問いに答える。


「いや、それが俺にもよくわかんないんだよね。戸籍上は南茨木琉火が本名だよ」

「君、自分で名乗ったんじゃないか?」


 そう言われると龍煇丸は少し悩んでいた。

 それは隠し事をしようというのではなく、どう説明するか迷っているという様子だった。

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