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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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bad with tastes

 泰伯たち四人は今、電波塔の近くにある屋外テーブルの上で食事をしていた。泰伯は焼きそばとたこ焼き、日輪はおかずクレープを四つ、孝直はドーナツを三つ。そして彷徨は炒飯と餃子というラインナップである。


「泰伯さんと日輪さんは意外と少食ですね。普段のイメージだともっとたくさん買い込んでくるかと思っていましたが」

「もちろん、後で買い足しにいくぞ?」


 孝直の疑問に日輪は当然のようにそう返す。


「せっかくなら温かいのを食べたいからね。あまり一度に買い過ぎたら食べてるうちに冷めるだろ?」


 そう言いながら焼きそばを食べる泰伯を、孝直は物言いたげな目で見る。そして隣の彷徨に、


「泰伯さんにもそういう感性ってあるんですね」


 と小声で言った。


「まあ、泰伯でも温度くらいはわかるでしょ」


 彷徨もそれに小声で返す。

 泰伯は味覚が鈍いほうであり、それは孝直たちも周知の事実だった。

 前に調理実習の時、四人で班を組んでいたのだが日輪がうっかり砂糖と塩を間違えてしまった。それで出来上がった肉じゃがを泰伯は甘くておいしいと言って平然と食べていた。

 その時は孝直と日輪は、間違えた日輪への気遣いかと思っていたのだが後で彷徨に聞いたところ、どうやら素の反応らしい。

 一番付き合いの長い彷徨は過去にも何度かそういう場面を見ているとのことだった。


「……泰伯さんのあれは、その、好き嫌いがないだけなんですか? それとも本当に味覚がバカなんですかね?」

「味覚がバカなの。だってあいつ、サルミアッキを、独特な味だねとか言って平然と食べちゃうからね」

「……食べさせたんですか?」

「うん。流石にそれくらいはわかって欲しかったけどそんな反応だったからさ。もうなんていうか……気の毒すぎてイジる気すら起きなかったね」


 彷徨の意見に孝直は無言で頷いた。

 孝直はサルミアッキを食べたことはないが、不味いということは知っていた。世界一まずいお菓子との不名誉な呼び名もあるくらいには悪名の轟いた菓子である。

 それを友人がそんな反応で食べれば、彷徨のような気にもなるだろう。

 二人がそんなこそこそ話をしていると泰伯が訝しげな目で二人を見てきた。


「なんだよ二人でこそこそと。僕の悪口でも言っているのかい?」

「あー、これはですね……」


 図星なため孝直は言葉に詰まる。

 そしてすがるような目で隣の彷徨を見た。

 彷徨は少しの間、口をまごつかせていたがやがていい方便を思いついたようである。


「そうそう、えっとさ。さっきの夙川先生との勝負の時、二刀流とかやってみたらよかったんじゃないかなって。ルールではありってなってた気がするし」

「二刀流?」


 思いがけない言葉が出てきたので泰伯は少し不思議そうにした。


「そうそう、二刀流。剣二本って強そうじゃん?」

「なんでそんな話をこそこそしてたのさ?」

「いやほら、まだ負けた直後だからショックかなぁって」


 彷徨はやや引きつった作り笑いを浮かべた。

 泰伯は多少疑問に思ったようだがそれ以上追及することはなく、彷徨の質問――二刀流について話し出す。


「まあ、そりゃ巧い人がやれば強いけどさ。難しいんだぞ。そもそも、左右で違う動きを意識的にするのがまずハードル高いんだから」

「というかそれ以前の疑問なのだが、剣道に二刀流というルールはあるのか?」


 日輪はまず前提としてそれが気になった。


「一応あるよ。とはいえ大学生以上じゃないと試合で使えないし、そもそも教えられる人間が少ないんだよね。うちの道場でも教えてないし、もちろん部活でもやらないよ」

「夙川先生なら出来るのではないか? 確かあの人は、大学でインターカレッジにまで出たと聞いたが」

「インターカレッジって何?」


 日輪の言葉に彷徨が疑問を挟んだ。泰伯は少し考えてから、インターハイの大学版だと説明する。


「でも、強いのと二刀流をやれるのとは別問題だよ。例えば野球でもいいピッチャーだからといってどんな変化球でも投げられるわけじゃないだろ?」

「なるほど、それもそうか」

「でもさー、二刀流ってなんかロマンない?」


 彷徨は目を輝かせている。


「まあ、ロマンはあるよ。けどね、それでちゃんと強くないと格好悪いだろ?」

「まあそれはそうですね」


 孝直が冷静に頷く。


「それでさ、二刀流でってなるってのが難しいんだよ。昔、親父に言ったらやらせてくれてね」

「どうなったんだ?」

「ボコボコにされたよ。そういう人だからね」


 どこか冷めたような、諦めたような口調で泰伯は言う。その顔がとても色褪せていて、身内の話をするときにするような顔に思えなかったので日輪と孝直はどう言葉をかけていいかわからなかった。


「ま、二刀流はやらないよ。少なくとも今はね。そんなことよりもさ」


 しかしもう次の瞬間には、泰伯はさっきまでと変わらない明るい――日輪たちの知る、いつもの泰伯に戻っていた。

 そして、買ってきた料理をすべて食べ終えていた。


「海外製の珍しいお菓子買ってきたんだけど食べないかい?」

「ああ、いいですね。何買ってきたんですか?」


 孝直に聞かれて泰伯はレジ袋からそれを取り出す。


「前に彷徨がくれたことがあってね。印象的な味だったから覚えてたんだ」


 それを聞いた瞬間、彷徨と孝直は嫌な予感がした。 

 そしてその予感は的中する。

 泰伯の取り出したそれは、黒と白の菱形が並んだ独特な模様をした紙製の小箱で、正面に白い文字で「SALMIAKKI」と書かれていた。


「彷徨さん――恨みます」

「……マジでごめん」


 孝直は親の仇を見るような据わった目で彷徨を睨み、彷徨は心の底から申し訳なさそうな顔をしていた。

 しかし日輪は珍しそうに箱を眺めている。


「なるほど、これか。話に聞いたことはあるが食べたことはなかったな。一つもらおう」

「待って日輪早まらないで!!」


 彷徨が止める間もなく、泰伯は箱を開けて中から黒い消しゴムのような形のそれを取り出して日輪に渡す。日輪はそれを躊躇いなく口に放り込んだ。

 そして――。


「うむ。確かに――これは、噂に違わぬ……不味さだ」


 奇妙に顔を歪ませた。


「そう思うなら吐き出してください!!」

「ほら日輪、水飲んで水!! いや、飲んじゃダメだよ口ゆすいで!!」


 孝直と彷徨は深刻な顔をして日輪を介抱する。

 その横で泰伯は、


「……そんなに不味いの、これ?」


 と、不思議そうな顔をしながら平然とサルミアッキを食べていた。

キャラクタープロフィール更新しました。「焱月龍輝丸」を追加し、これで主人公四人は出そろったことになります!!

https://ncode.syosetu.com/n9649kb/6

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