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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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bad with directions

「遅いなあいつ」


 結局、仁吉と龍煇丸は各々好きなものを買ってきて元いたテーブルで再集合しようという運びとなった。

 しかし待ち合わせのテーブルにいつまで経っても帰ってこない龍煇丸を、仁吉はやや苛立ちながら待っている。

 仁吉の前には少し離れた和食エリアのキッチンカーで買ってきた手まり寿司がある。手まり寿司とはお手玉くらいの大きさのシャリの上に寿司ネタを乗せたものであり、元々は舞妓が食べる時に口紅を落とすことなく食べられるようにと考案されたものである。

 仁吉の行った屋台ではそれがネタごとに値段を決めてバラ売りされており、買う側が好きなように選べるというシステムだった。一個あたりの単価も安く、基本が一つ百円で一番高いネタでも三百円という価格設定だったため、ついつい仁吉は買いすぎてしまった。

 今、仁吉の前には約二十個ほどの手まり寿司がある。

 元々、今日はデートということだったので余分にお金を持ってきていたし、食事量は人並みの仁吉にとっては一つ一つの量は多くなく、しかも選択肢が豊富とあってつい加減を見失ってしまったきらいはある。

 しかしそこは、いざとなれば龍煇丸に食べてもらえばいいかという打算もあった。

 まぜそばを食べた後に、味の濃いものが欲しいからとピザやポテトを買いに行くと龍煇丸は言っていた。仁吉は正直なところ、ラーメン一杯でそれなりに腹が満たされている。しかし龍煇丸にとってはまだまだ余裕らしいので、龍煇丸はそれなりに大食いなのだろうと仁吉は思っていた。

 まあ、いざとなれば手まり寿司の二十個くらい、多少の無理をすれば食べきれない量ではないのでどうにかなるだろうという見立てもある。

 そして、のんびりと手まり寿司を食べながら仁吉は龍煇丸について考えていた。

 そもそも、「焱月(えんげつ)龍煇丸(りゅうきまる)」という名はなんなのどろうかと。

 如水の妹だというのは、それはそれで嘘ではないと仁吉は思っている。南茨木琉火という名も偽名ではなく、学校ではそれで通しているのではないかと考えていた。

 というのも、女子で「龍煇丸」という名前はあまりに浮きすぎる。もちろん名付けは家それぞれなのでそういう名前の女子がいても悪いとは思わないが、間違いなく目立つだろう。

 なので南茨木琉火という名は、少なくとも戸籍的にはそうなのだろうと仁吉は推測していた。

 ならば戦闘時に名乗った「焱月龍煇丸」という名はなんなのだろうか、という話になる。

 こう考えてどうしても気になるのは凰琦丸のことだ。仁吉はその字までは知らないが、改めて頭の中で音だけを並べてみても、二つの名前はとてもよく似ている。そして二人とも、仁吉のことを指して「嫌な奴の気配がする」と言った。

 凰琦丸と戦った直後に龍煇丸と遭遇したのは偶然だろうが、名前の類似性とその感覚については偶然でないように思う。


(僕自身のことじゃないとは思うが……。ならなんだ? ハッコウケン絡みか? 魂だの前世などが関わってるとすると、あの虎か? いや待てよ。なんか他にもあった気がするけど……駄目だ、出てこない)


 凰琦丸との戦いの中で何か他の相手と遭遇したような気がする――いや、実際にしているのだが、仁吉の記憶の中からそれはすっぽりと欠落していた。

 そしてこのあたりのことはやはり考えてもわからない。とりあえず龍煇丸に名前の話を聞くところから始めようと思って、


「……本当にどこいったんだあいつ?」


 しかし龍煇丸は一向に戻ってくる様子がない。

 迷っているのかもしれないと思ったが、連絡先も知らないので仁吉にはどうすることも出来ない。気がつけば仁吉が買ってきた手まり寿司はもう残り二つにまで減っていた。

 そんな時、仁吉の携帯電話に着信があった。非通知で誰からはわからない。とりあえず出てみると相手は龍煇丸だった。


「ねえ先輩、どこいるの?」


 開口一番そう言われて仁吉は怒りが頂点に達した。


「お前こそどこいるんだよ!? さっきのテーブルで再集合って言っただろ!!」

「うん、だからさっきのとこいるんだけど?」


 あっけらかんと言う龍煇丸の言葉を聞いて仁吉は少し不安になった。自分のほうが場所を間違えているのかもしれないと。

 しかしもう一度周囲を見回して確かめても、間違いなく仁吉のいる場所で合っている。


「……おい、お前の場所から見てどっちに櫓がある?」


 櫓とは坂弓公園の中心にある真っ白な電波塔のことであり、坂弓市民からはおもに櫓と呼ばれている。高さは五十五メートルあり、基本的に坂弓公園の中で屋外ならばどこからでも見えるのだ。


「んー、右側」

「方角で言えよ!! 左右なんてお前のさじ加減だろうが? ほら、北とか南とか」

「北ってどっち?」

「……嘘だろお前」

「んなもんわかるわけないでしょ。日常的に東西南北とか意識して生きてる人間なんていねーよ。右とか左とか、どっちから来たかとかそんなもんでしょ?」

「お前それすらわかってないじゃないか」


 仁吉は胃がきりきりと締め付けられるような思いだった。


「……時計あるか? アナログの」

「あるわけないじゃん」

「じゃあググって時計の文字盤出せ。それで短針を太陽に向けて十二の文字盤との間が南だ」


 龍煇丸は言われた通りに南を割り出した。

 その後も電話越しに龍煇丸に指示することおよそ五分。どうにか仁吉は龍煇丸の居場所を把握することが出来た。

 場所は二人が元いた場所の正反対である。


「んじゃ俺、今からそっち行くよ」

「なんでだよ!? 来るな、動くな。僕が行くからお前はそこでじっとしてろ」


 そう言って怒り気味に電話を切る。そして残った手まり寿司をさっと口に放り込むと龍煇丸の所へ向かった。


(そういやあいつ、なんで僕の番号知ってるんだ?)

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