inside my core_2
仁吉のことが気になっている。
龍輝丸のその言葉に、仁吉はいっそう疑いの気持ちを深めた。
「何をどうやったらそうなる? 僕はあの時、遠慮も加減もなしに容赦なくやったつもりなんだけれど?」
「そうだね、普通に痛かったよ。そんで俺、負けたじゃん」
「……そうだね」
龍輝丸はそう言うが、実のところ仁吉はその時の龍輝丸の降参にも疑問に思っている。
龍輝丸はどうもまだ何か手の内を隠していて、やろうと思えば仁吉に取り押さえられた状態からでも戦況を覆せたのではないかという気がしているのだ。
しかしその話をわざわざここでしようというつもりはない。
散々な目にはあったがどうにか生き延びれはしたし、龍輝丸が何かまだ力を隠していたとしても興味はない。
というよりも、叶うならばもう関わり合いになりたくないというのが仁吉の本音であった。
その本音を特に隠そうともしない仁吉の不機嫌そうな顔を笑いながら見つめ、龍煇丸は言う。
「俺さ、強い奴が大好きなんだよね。だからさ先輩、俺と付き合ってみない?」
「嫌だね」
即答だった。
「嘘でももう少し悩むフリくらいしないんだ?」
一瞬でフラれたにも関わらず龍煇丸は特に落ち込んだりする様子もない。
「するわけないだろそんなこと」
「えー、でも先輩って黒髪ロング好きなんでしょ?」
「……そういや言ったなそんなこと」
仁吉は戦闘中の、朦朧としていた意識の中で口走ったことを思い出して頭を抱える。
そして龍煇丸はほらほらと、見せびらかすように自分の黒髪を撫でていた。
「君みたいな野蛮な子は趣味じゃなくてね。僕は別にモテるほうじゃないけれど、それでも選ぶ権利くらいはあるんだよ。他の選択肢が一生独り身だったとしてもね」
「はは、思った以上にこっぴどくフラれちまったや。まあいいんだけどさ。どーせ無理だろと思ってはいたし」
龍煇丸はやはりケロリとした顔をしている。
「無理だと思ってたならやるなよ」
「それは恋をしたことのない人間の言い分だよ。先輩、人を好きだと自覚したことないでしょ?」
「なんだよ、その変な言い回しは?」
「いやだってさ、先輩、好きな人いるでしょ?」
「は?」
仁吉は思わず間抜けな声を出してしまった。
しかしそれは当然のことである。仁吉にはそんな相手などまったく思い当たらないからだ。
「間違いなくいるよ。俺は野蛮でがさつだけど、他人の心の揺れとかには敏感なほうでね。ま、これ以上を野暮は言うつもりはないけどさ」
「心当たりゼロなんだけど、なんでそう思うんだよ?」
「さてね。まあ、ほとんど勘なんだけどさ。なんていうのかなー? 先輩のその、好きな人の枠みたいなのはもう誰かで埋まってる感じがすんだよね」
龍煇丸に言われても仁吉は今ひとつピンとこない。どう考えてみても、そういった相手が思いつかないのだ。
「ま、それは先輩がそのうち気づくことだよ。さっきも言った通り、野暮なマネすんのはヤなんでね」
けらけらと龍煇丸は笑う。
これ以上話すつもりはないようなので仁吉も聞くのを止めた。
「ま、バレたなら今日はこれまでかな? それとも、キヨちゃんとの約束通り今日一日は遊んでくれたりする?」
そう言われて仁吉は、今回の発端が聖火の紹介だったことを思い出した。
「そういえばお前、聖火の友達なんだよね?」
「うんそーだよ。キヨちゃんもだし、キョーちゃん……ああ、紀恭ちゃんね。二人とは仲良しなんだ。ほら、こないだ言わなかったっけ? 知り合いに達人がいるって」
その台詞は先の戦いで仁吉が龍煇丸に合気をかけた時に龍煇丸が言ったものである。
仁吉はその時は流していたが、その達人が紀恭だと知って納得がいった。合気の技量だけで言えば紀恭は仁吉よりも上だからだ。
「でも、普段は今みたいな喋り方じゃないんだろう?」
「まーね。けど別に、どっちも俺だよ。先輩だって親や友達相手と先生とか相手じゃ話し方は変えるし、普段と戦闘中だとじゃ口調も違ってくるでしょ? 俺の学校と戦闘中との違いもそんな感じだよ」
そういわれ仁吉は納得した。
言われてみればその通りで、どんな状況でも、相手が誰でも同じ姿勢でいる人間などまずいない。いたとしてそれは、確固たる自分があると言えば聞こえはいいが、要するに場を弁えることの出来ない無礼者だ。
依然として仁吉の中で龍煇丸とあまり関わり合いたくないという気持ちはあるが、しかし龍煇丸が普段学校で聖火と接している姿もまた自分であるという言葉は信じられるような気がした。
「そうか。なら、まあこういうことを言うのも筋違いかもしれないが、これからも聖火と紀恭のことをよろしく頼むよ」
「いいよ。そんじゃさ」
「なんだよ?」
「とりあえず屋台ハシゴして、なんか二人でキヨちゃんへのいい辻褄合わせ考えようぜ? どうせ週明けに聞かれるのは間違いないんだからさ?」
「……そうだな」
聖火の性格ならば週明けを待たず今日の夜にでも聞いてくるだろうと容易に想像出来た。仁吉は頭を痛めつつ、
「……次は、何食べる?」
と龍煇丸に聞いた。