inside my core
獰猛な笑みを浮かべ、餌を前にした獣のように笑う。それだけの変化で、仁吉には先ほどまで南茨木琉火だと認識していた眼前の少女が焱月龍煇丸にしか見えなくなった。
顔の形そのものが変わったわけではない。
服装も髪の色もそのままである。
「……よく化けたものだね」
冷静になって見れば全くの同一人物のはずなのだが、仁吉は今の今までまるで気づかなかった。眼帯の有無、髪の色、口調、メイクをしているかどうかという差異はあるが、逆に言えばそれだけなのである。
そして時々、琉火を見て不思議な感じもしていた。
それなのに、南茨木琉火が焱月龍煇丸だという発想にすら至らなかった。自分の間抜けさに腹が立つよりも龍煇丸の変貌に感心している。
「ま、それなりに自信はあったからさ。しかし先輩ってなかなか鋭いね。ああいや――鈍いね、って言って欲しい?」
「どっちでもいいよ。好きなように評価しろよ。今の君からすれば僕は、さぞかし愉快な道化だろうからね」
しかめ面をする仁吉を龍煇丸は楽しそうに眺めて笑っている。仁吉は自分が見せ物小屋の猿にでもなったような気分だった。
「ま、変装のコツってのは顔を変えることじゃないんだ。特殊マスクで別人に成りきるなんて漫画の中だけの話だよ」
「……コツ、ね。後学のために聞かせてもらおうかな? いつ役に立つかは知らないけど」
「違う自分になりきるんだよ。そんで、隠したい自分の片鱗を消すのさ。それでいて堂々とすること。そうすりゃ、相手は違和感を持たない。何かを感じても気のせいだと勝手に解釈してそれで終わりだ」
気分よく講釈を垂れる龍煇丸を仁吉は冷めた目で見ている。いきなりこの話だけをされても、そんなにうまくいくものかと思っただろうが、それが実際に有効であるということを仁吉は体験してしまった。
「ま、それでも先輩にはバレたんだけどね。なんでわかったの?」
「走り方」
仁吉はさらりと言う。
言われた龍煇丸のほうは目を丸くして驚いている。
「走り方って、マジ? 戦った時はともかく俺、今日ほとんど走ってなんかいないぜ?」
「さっき、ここへ来るときに小走りしただろう?」
「え、それだけで? 今日半日、面と向かって話しても微塵も気づかなかったのに?」
「……まあ、あの戦いの時は、嫌になるくらいに注視したからな」
皮肉のつもりで仁吉は言う。
「ま、あの時のことは悪かったと思ってるよ」
龍輝丸は一応頭は下げているが、特に悪びれる様子はない。
「それで――お前の目的はなんなんだ?」
「目的?」
怪訝そうに自分を睨む仁吉の言葉をオウム返しにしてから、龍輝丸は思わず吹き出す。
「……なんだよ、何がおかしいんだ?」
「あっはは、いやだってさ。そんな深刻な顔して目的はなんだ、なんて聞かれちゃったら笑うしかないじゃんか。先輩、俺がそういう回りくどいことするような奴に見えてるわけ?」
「じゃあ、どういうつもりでここに来たんだよ?」
「そんなの、最初に聖火ちゃんに言ってもらった通りだよ。俺は先輩のことが気になってて、デートしたいから来たの。それだけだよ」