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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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soul watcher_2

 蒼天たちが玲阿たちと合流してから一時間ほどが経った。

 琥珀はまだ、変わらないペースでビールを飲んでいる。


「……琥珀ちゃん、それ何杯目?」


 呆れというよりは心配になって悌誉は聞いた。


「飲んだ量を自慢するなんて酒飲みにとって一番ダサいことだよ」

「いやそうじゃなくて健康的な心配というか……」

「茶碗一杯の米で満足する人間がいれば、どんぶりで食べても足らない人間もいる。どちらが健康というわけでもない、ただ胃袋の大きさの違いだ。酒も同じことだよ。肝臓の個人差だ」

「暴論じゃないッスか?」


 桧楯は懐疑的な目で琥珀を見ている。

 そして隣の蒼天に、


「一組の担任ってこんな感じなんスね。なんていうか……教育に悪そうじゃないッスか?」


 と小声で囁いた。


「まあ、いい教師じゃよ……。反面という語が頭に付くがの」

「でしょうね」


 桧楯は呆れていた。

 琥珀はそんな桧楯を見て、


「ま、どう思うのもお前の自由だ。だけど今日のところは一応昼飯おごってやったんだから、私に出してもらったこととかは内緒で頼むよ桧楯」

「……まあいいッスけど」


 そんな話をしていると、桧楯の背後から忠江がやってきて桧楯と肩を組む。急に距離を詰められて桧楯は思わず裏返った声で叫んだ。


「おっと、ごめんヒッター、もしかしてボディタッチ苦手なタイプ?」

「べ、別にいいんスけど……。ヒッターってなんスか?」

「そりゃもちろんあだ名じゃんね。ここであったのも何かの縁ってことで仲良くしよーぜ」

「ま、まぁそれは……いいんスけど」


 距離感が近く、しかもぐいぐいと来る性格の忠江に桧楯は戸惑っていた。

 それを見て蒼天は桧楯が人見知りだということを思い出す。蒼天とも最初はこんな感じあった。


(ま、すぐに慣れるじゃろ)


 そんなことを思いながら蒼天が二人を見ていると玲阿が隣にやってきた。


「忠江ちゃんはいつも通りだね」

「そうじゃの。ヒタチは大変そうじゃがの」

「ところでヒタチちゃんって……どんな漢字書くの?」


 そう聞かれて蒼天は、そういえばと思う。

 蒼天も桧楯の漢字表記を知らないのだ。


「日本の日に立つではないか?」

「時代劇とかでさ、なんか、ひたちのくに、みたいなのなかったっけ? 漢字思い出せないけど」


 蒼天と玲阿がそう話していると琥珀が横から口を挟んできた。


(ひのき)の楯だよ。楯は木偏にシールドのほうだな」


 琥珀に言われて二人はそうなのか、という顔で桧楯を見る。桧楯は無言で頷いた。


「というか琥珀おぬし、よく受け持ちでもない生徒の下の名前分かるの?」


 琥珀がさらりと答えたので、蒼天には漢字よりもそちらのほうが気になった。


「それくらいわかるよ」


 琥珀は事も無げに言う。


「そう言えば琥珀ちゃん、私の名前もすぐ出てきたよね? 担任だったの一昨年なのに」


 悌誉が言う。


「なんだお前たち、人をボケ老人か酔っぱらいとでも思ってるのか?」

「少なくとも酔っぱらいじゃろ」


 蒼天が鋭くツッこむが琥珀は取り合わない。

 そして声を張り上げて言う。


「生徒の名前くらいちゃんと覚えてるよ。こんな感じだが、その程度には教師だ。それとな――」

「それと?」

「ビールは!! 水だ!!」


 力強く宣言した琥珀の頭を、悌誉は反射的に叩いていた。


「おい蒼天、水持ってこい。二リットルのを二本くらいだ!!」

「お、ピッチャーか。景気がいいな。だが流石に生徒にビールを買いに走らせるわけにはいかないぞ」

「いい加減怒るぞ琥珀ちゃん!! ほら蒼天、早くいけダッシュ!! ちゃんとミネラルウォーター買ってこいよ!!」


 悌誉の気迫に負けて蒼天は売店の方へ走っていく。

 それでも琥珀は臆することなく、


「わかったよ、水飲めばいいんだろ? そしたらまだビール飲んでいいな?」

「……どれだけ飲む気なんだ?」

「これでも酒との付き合いは長いんだ。一人で歩いて帰れるくらいしか呑まないよ。そうだな、ざっと後十杯は余裕だ」

「――夙川先生連れて来ますよ!?」


 悌誉がそう言うと琥珀はふて腐れた顔をしながらビールのコップをテーブルに置いた。


「……風紀委員の先生に怯む教師って何なんスかね?」


 桧楯は呆れを越えて、可哀想なものを見る目で琥珀を見つめていた。


「なんでもあの二人、高校の時からの友達らしいよ」

「へー、レアチよく知ってんね」

「うん、前に琥珀ちゃんが言ってたんだ」

「……それ、夙川先生は岡町先生のこと友達と思ってるんスか?」


 何気ない桧楯の一言に玲阿と忠江は黙り込む。少なくとも客観的には義華と琥珀は優等生と不良という関係性にしか見えないからだ。

 そして玲阿たちの知る義華は、真面目な生徒には優しいが不真面目な生徒や不良に対しては手厳しい一面もある。琥珀は生徒ではないが分類は間違いなく後者だ。

 義華がそんな琥珀を友人と呼ぶだろうかと考えて――。


「……そ、それより岡町先生ってお酒強いんスね!?」


 桧楯は話題を変えた。


「そ、そうだねー。でも確かに顔色変わってないし足取りもしっかりしてるし、普通に会話してるもんねー」


 玲阿も棒読みでそう返す。


「あー、んじゃさ。怖い話していい?」


 そして忠江は少し声のトーンを落とした。


「ど、どしたの忠江ちゃん?」

「私さ、見ちゃったんだ……。このあたりのテーブルで琥珀ちゃんを見つけた時にね……。琥珀ちゃんが、大量に積み重ねたビールのカップを捨ててるのを」


 忠江の口調は怪談でもしているかのようだが、内容は違う方向に恐ろしい。


「……その大量って、どれくらいッスか?」

「今のあれより高かったね間違いなく」


 そう言って忠江は琥珀のテーブルの前を指す。そこには山と積まれたビールのコップがあった。


「あれって確か、私たちが琥珀先生と会ってから飲み始めた分だよね?」

「うん。私らが琥珀ちゃんと会って話し込んで、そっから買い出し言ってヨッチたちと合流して今だから……二時間半くらいじゃね?」

「その間ずっと酒びたりッスかあの人?」

「……それで、その二時間半の間に飲んだよりたくさん飲んでたの?」


 三人は顔を見合わせた。

 そして。


「ところでヒッターって休みの日とか何してんの?」

「あ、ああ? そ、そうッスねー」


 この話題にはもう触れないことに決めた。

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