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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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exceed the blade

 泰伯たちが向かった体育館の中で行われている企画『大人のチャンバラ』は要するにスポーツちゃんばらである。

 全長一メートルのエアーソフト剣を持ち、先に相手の体に当てたほうが勝ち抜けという単純なルールだ。

 打撃、投げなど素手の攻撃は当然禁止。肉体の接触があったらレフェリー判断で仕切り直し。その接触が故意と見なされれば反則負けとなる。

 年齢は小学生の部、中学生の部に加えて大人の部があり高校生以上は大人の部となる。

 そして現在。体育館の壇上で行われている『大人のチャンバラ』の大人の部では十九人抜きを達成したという女性がいた。


「ねえ泰伯さん。僕、ゼロ人抜きに変えていいですか?」

「俺も変更だ泰伯。彷徨は――この中で一番泰伯との付き合いが長いんだ。もちろん、泰伯を信じるのだろう?」

「無理、俺も変える!!」


 孝直、日輪、彷徨の三人はその女性を見た途端に手のひらを返した。そして当の泰伯も表情をひきつらせている。


「ふざけるな彷徨!! というか僕だって変えたいよ!!」

「ダメに決まってるだろ!!」

「じゃあ、僕が負けたら三人にドーナツ一つずつ奢るからあの人に買ったら三人とも僕に千円以内で何か奢れよ。それくらいのリターンはあっていいだろ!?」


 そう言いながら泰伯はその女性――夙川義華のほうを見た。

 剣道部の顧問であり、不良が恐れる風紀委員の鬼教師。加えて泰伯にとっては、前世の彼女にではあるがつい先日殺されかけた相手である。

 今の義華は前世――淼月(びょうげつ)凰琦丸(おうきまる)の影響はないはずだが、それを抜きにしても義華の実力は嫌というほど知っている。

 勝てる気がしないというのが泰伯の本音だ。

 そして実際、義華のあまりの強さに次の挑戦者は現れず、運営側から義華にここでの打ち止めを打診している。そして後三分以内に挑戦者が現れなければそれまでというアナウンスがされた。


「どうする泰伯、夙川先生が降りた後にさっきの条件でやるか?」


 日輪が泰伯に聞いた。

 泰伯は少し迷っていたが、


「……いや、やる」


 と答えて壇上へ向かう。

 泰伯が挑戦者として名乗り出ると体育館中から歓声が湧いた。これまで義華の強さを目の当たりにしていた観客たちにとって泰伯はとても勇敢な若者に見えたのである。

 これは泰伯たちは知らないことだが、義華への挑戦者の中には当然男性もいたし、剣道の経験者もいた。しかし義華はそのすべてを、涼しげな顔で負かしてきたのである。挑むことを決めたというだけで泰伯が称賛されるのは当然のことだった。


「おや、次の挑戦者は茨木くんですか」


 エアーソフト剣を手に壇上に上がってきた泰伯を、義華は微笑みと共に迎えた。


「……何やってるんですか先生? 剣道有段者のやる遊びじゃないと思うんですけど?」


 泰伯はまだ勝負も始まっていないのに疲れたような顔をしていた。


「そうですね。少し、年甲斐もなくはしゃぎたくなってしまいまして」

「……そうですか」


 楽しそうに、どこか無邪気に笑う義華に泰伯は一瞬だか凰琦丸の面影を見た。

 仁吉には、義華と凰琦丸は別人だから気にしていないと言ったが、泰伯にとっても凰琦丸との戦いはしっかりとトラウマになっている。仁吉の前ではただ強がったに過ぎない。


「それに、先ほどまでは手加減はしていましたよ。ですが……泰伯くんにはそんなものは不要でしょう?」


 そう言って構える義華が、泰伯にはとてと恐ろしく映った。手にしているのは何の殺傷能力もないエアーソフト剣なのだが、真剣を手にした相手と対峙しているような緊張感がある。


(くそ、彷徨たちとの賭けの内容、もう少しふっかけてやればよかったな……)


 レフェリーが勝負開始の合図をした時、泰伯はそんな後悔をしていた。

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