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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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soul watcher

 そして正午ごろ。

 蒼天、悌誉、桧楯もまた坂弓公園にやってきていた。

 切欠は悌誉が『ヒラルダ』の中でふと『坂弓フードフェス』のポスターを見つけたことである。そう遠くもないし三人とも特に予定はなかったのでせっかくならば行ってみようということになったのだ。


「うーむ、フードフェスに来たみたいじゃの。テンションあがるのー!!」

「……フードフェスに来てるんスよ」

「こう、いい匂いがただよってると、無性に腹が――減ったな」


 悌誉はあちこちに立ち並ぶ屋台やキッチンカーを見回しながら右手で腹を抑えている。先ほどの水ようかんはもちろん絶品だったし、その余韻もまだ残っている。

 しかし現実問題として、水ようかん三切れで腹は膨れないのだ。


「わざわざ来たんだ。今日は財布の紐を緩めるから、あまり気にせずに楽しもう」


 悌誉は蒼天に言った。

 蒼天は満面の笑みを浮かべ、


「愛しておるぞ悌誉姉!!」


 と悌誉に抱きつく。


「……もうご飯いらないとか言ってたッスよね蒼天さん?」


 桧楯が蒼天を睨めつける。


「あれは言葉のあやというやつじゃ。アイドルとかと握手してもう手は洗わん、みたいなこと言うようなもんじゃよ」

「まぁ、言いたいことはわかるッスけど……」


 そんな話をしながら三人が向かったのはドイツ料理コーナーだ。目当てはソーセージである。

 そして歩くこと数分。蒼天たちは焼きソーセージを販売しているキッチンカーを見つけた。昼時ということもあってそれなりに待ちの行列が出来ている。

 その列に並ぶ人間の中に蒼天と悌誉は知己を見つけた。

 向こうも蒼天たちに気付き、声を掛けてくる。


「あ、よっちゃんに悌誉さん!!」

「おーすヨッチ、そっちのイケメン姉さんとメガネちゃん誰ー?」


 玲阿と忠江である。

 二人は列の、比較的先頭のほうにいた。


「おぬしらも来ておったのか。というか、余も誘ってくれない?」


 蒼天は少し寂しそうな顔をしている。


「ごめんね、なんか今朝、急に忠江ちゃんから連絡きてさ。今、坂弓公園いるんだけどこないかって? だから私、よっちゃんの家行ったんだけどお留守だったから……」

「なるほど、そういうことか」


 話を聞いて蒼天は納得した。


「つーかヨッチ、よかったら私らでヨッチらの分も買おうか? 後で精算すりゃいいし」

「それは助かるがよいのか?」

「うんいいよ、任せといてー。そっちのイケメン姉さんとメガネちゃんも欲しいもん教えてー」


 忠江にそう言われて蒼天と悌誉、桧楯はメニューを見てオーダーを決める。人見知りな桧楯は忠江の陽気さに圧されて少しおどおどとしていた。

 そして数分後。

 五人でも持つのがぎりぎりなほどの山のような料理が出された。


「……どんだけ食べるんじゃおぬしら?」


 蒼天たち三人は一人一皿しか頼んでいない。しかし皿の数は十枚を優に越えている。


「たはは、まあ、お腹すいたしついね」

「それに奢りだしちょっと調子乗ったかもねー。でも全然食べれるよ」


 気恥ずかしそうに笑う玲阿の横で忠江は、両手に皿を三枚ずつもちながら笑っている。


「ん、奢り? 誰か他におるのか?」

「親御さんと一緒なんじゃないか?」


 蒼天の疑問に悌誉はそう推測したが、忠江は首を横に振った。そしてそう話している間に忠江が向かった先には、


「お、玲阿に忠江。ごくろうさん。と――なんだ、蒼天と悌誉に……三組の桧楯か。お前らも来てたのか」


 赤髪の女教師――岡町琥珀がビールを片手に座っていた。

 琥珀は顔に酔いこそ出ていないが、その前にはビールのはいっていたとおぼしきプラカップが重なって積まれている。


「……普通、教え子にパシりさせて酒飲むッスか?」

「本当に教育に悪い教師じゃの」

「相変わらずだな琥珀ちゃん……」


 桧楯、蒼天、悌誉は悪びれずにいる琥珀を見て呆れていた。そして琥珀はそんなことなどお構い無しにビールを飲んでいる。

 忠江が料理を置いて悌誉たちの精算の話をすると、


「あー、別にいいぞ。お前らの分も出してやる。だけど他の奴らには秘密だぞ」

「随分と気前がいいな琥珀ちゃん」

「というか、今はあぶく銭を減らしたいんだよ」

「なんじゃ、また大勝ちしたのかの?」


 蒼天は前にひょうたん池で聞いた話を思い出した。つい最近、何かしらのギャンブルで買ったせいで個人の創作のほうが不調なのだろうと。

 そんな蒼天のことなど気にかけず琥珀は立ち上がってどこかに行ったかと思うとビールを補充して帰ってきた。


「……よく昼間からそんなに呑めるッスね」


 桧楯は呆れを通り越して感心していた。


「ま、私にとっては水みたいなものだからな。お前ら、呑むなら私に隠れて呑めよ」

「……嘘でも呑むなって言ってくれないかな琥珀ちゃん!?」


 悌誉は真剣な顔で叫ぶが琥珀は意にも介さない。


「別に高校生ならいいだろ。ま、他人に迷惑かけないようにな。後は私の前では呑まないこと。それと……」

「呑むわけなかろう!!」

義華(よしか)に見つからないように」


 そう言ったとき、琥珀はもう、さっき買ってきたビールを飲み干していた。

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