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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue2 “*lac*s*i*h in my soul”
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pandemonium

 今日はまだどの部活も活動はしていないため、グラウンドはいつにもまして広く見える。

 もともと野球部とサッカー部が同時に試合をすることの出来るだけの広さを持って入るのだが、そこに人の密度がないだけでよく知ったグラウンドが倍以上に広がったように泰伯には思えた。

 自販機で買ったスポーツドリンクを二本持ちながらグラウンドの真ん中を通りすぎると、やがて石造りの階段が見えてくる。階段の先は森へと続いており、この森を越えると旧校舎だった。


「む、君は――茨木副会長!!」

「ああ、雲雀丘さんこんにち……」


 ちょうど旧校舎が見えたあたりで声をかけられた。それが目当ての人物、風紀委員長の雲雀丘(ひばりがおか)紀恭(ききょう)だったので泰伯は挨拶をしようとした。しかしそこでどうも様子がおかしいことに気づいた。


「私は君のことを信頼していたというのに……」

「ん? え、あの……雲雀丘さん?」


 紀恭は目を見開き、肩をわなわなと震わせながら泰伯を指差している。

 泰伯と紀恭は去年のクラスメイトであり、委員会の集まりなどでも顔を合わせれば普通に会話はする。無斬についての相談に意見をくれたのも彼女であり、少なくとも、会うだけで剣呑になるような関係性ではないと泰伯は思っていた。


「君も所詮、烏丸の友ということか!! 副会長ともあろう者が校則を犯して旧校舎探索に興じようなどとはなんたることだ!!」


 堅い言葉使いと威圧するような強い物言い。紀恭の言い分を察して、泰伯は思わず目を細めた。


「え、いやあの、勘違いしてるよ雲雀丘さん」

「問答無用、そこを動くなよ茨木副会長!! 徒手の剣士を投げ伏せるは雲雀丘流の道義に(もと)るがこれも風紀のためだ!!」


 間違いなく、盛大に誤解をされている。

 確かに、旧校舎に突撃しようという不埒な生徒以外こんなところに用はないだろうという言い分はわかるのだが、そこまで信用がないのかと思うと泰伯は少しだけ切なくなった。


(まったく、彷徨のせいでとんだとばっちりだよ)


 そしてその切なさは、心の中で彷徨に責任転嫁された。

 この場に彷徨がいたら怒りだすことは間違いないが、事実、彷徨は去年やらかしているので潔白とも言い難い。


「えーと、その、雲雀丘さん?。疑われたのは僕の身の不徳として受け入れるからさ、せめて弁明のチャンスをくれないかな?」

「……いいだろう。旧校舎突撃が目的でないというなら、君は何の用があってここに来たのだ?」

「差し入れを持ってきたんだよ、君に」

「……私に?」


 そう言いながら泰伯は手に持ったスポーツドリンクを見せた。


「何故に差し入れ?」

「新学期早々、放課後まで残って彷徨みたいな馬鹿の取り締まりをするのはご苦労だなと思ってさ」

「……もしや、崇禅寺会長の御厚意だったりするか?」


 段々と紀恭の言葉から威勢のよさが消えていく。それはさながら、陸に上がった魚のようだった。


「いや、差し入れ自体は個人的なものだよ。生徒会としてやるなら花屋敷さんと夙川先生の分も用意するさ。だけど、夙川先生はともかく花屋敷さんとは…………あまり、面識がないからね」

「む、うむ。むうむう、そう、だったのか……」

「そうなんだよ。誤解は解けたかな?」


 優しく笑いかける泰伯。それは、別に腹を立ててはいないので勘違いを改めてほしいというアピールのつもりだったのだが、紀恭は顔面蒼白になり、ついにはその場に土下座した。


「あの、雲雀丘さん?」

「すまなかった、茨木副会長!!」

「いいよ。気にしてないから頭を上げてくれないかな? だいたい彷徨が悪いよ」

「……つい先ほど、やってきた烏丸を投げ飛ばしたばかりなもので、気が立っていたのかもしれない。いいや、そんなことは何の言い訳にもならないな。すべては私の愚かさに起因することだ」

「十ゼロで彷徨が悪いね。学習能力ないのかあのバカ」


 泰伯に促されて立ち上がった紀恭は、まだ申し訳なさそうな顔をしている。


「君の友を悪く言うのは気が引けるが……無いのではなかろうか?」

「ついさっき投げ飛ばしたんだろう? 気を確かに持ちなよ雲雀丘さん。そんなものないよ」

「……先ほど私もそのような物言いをしてしまったが、そんなに強く言い切っていいのか? 友だろう?」

「友達だからこそだよ。友情というのは偏見と色眼鏡を排除して相手のことを理解することで生まれるものさ」

「それはそうだが、少しくらい、贔屓目というものはないのか?」

「そこになければないんだろうね」


 躊躇いも淀みもなく、それでいて清々しいほどににこやかな笑顔とともに言い放つ泰伯に、紀恭のほうが少し気圧されていた。

 紀恭、そして風紀委員にとっても烏丸彷徨という生徒は問題児の部類であり、褒められた点はあまりないのだが、友人でありながらここまで容赦のない泰伯を見ると紀恭は少しだけ彷徨が不憫に思えてきて、この話題をやめることにした。


「あー、ところで、茨木副会長」

「なんだい、雲雀丘さん?」

「旧校舎のことで相談があるのだが、生徒会として一つ、頼まれてはもらえないだろうか?」

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