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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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shopping mall“Girald”_3

「なるほどな。『藤雀堂』の水ようかんか」


 蒼天から事情を聞いて悌誉は一応は納得した。しかしあまりに大袈裟な蒼天の反応に呆れているところのほうが多い。


「詐欺の受け子のバイトでもしてるのかと思ったッスよ……」


 桧楯は悌誉よりも分かりやすく呆れている。


「何を言う桧楯!! 幻の『藤雀堂』の水ようかんじゃぞ!! 今までにこれをめぐって何人の血が流れたと思っておる!?」

「何を言うはそっちのほうッスよ!! ようかんのために法犯す人間なんているわけないじゃないッスか!! 今、西暦二千年代ッスよ。紀元前中国なんて無法地帯と一緒にしないでください!!」

「む、無法地帯ではない。あれはその……」


 前世の話を持ち出されて蒼天は反論する言葉に詰まった。


「まあ……。宴会の不手際が元で反乱とかがある時代だしな。肉の分配をミスって部下から敵陣に投げ込まれたって話もあった気がするし」


 悌誉は、これは転生者としての記憶ではなく自身の知識として語る。


「む、でも。でもでも……水ようかんじゃぞ?」


 蒼天は声をすぼめながら言う。


「……そんなに心配ならもうここで食べて帰ったらどうッスか?」


 桧楯の提案に蒼天は手を打った。


「そうじゃ、そうしよう。ちょうど悌誉姉もおるしの」

「何が、ちょうど、なんだ?」


 そう聞かれて蒼天は分かりやすくしまった、という顔をした。

 しかし桧楯はその反応で察しがついた。


「あー、もしかしてヤスヨさんと二人で食べようと思ってたんスか?」


 その言葉に蒼天は静かに頷く。


「蒼天……」


 蒼天の気持ちが伝わって悌誉は嬉しそうに、静かに口を綻ばせた。


「んじゃ私は帰ります。ごゆっくり」


 そう言って立ち去ろうとする桧楯を蒼天は止めた。


「待ていヒタチよ。せっかくじゃ、おぬしも一緒に食べていくがよい」

「え、なんでッスか? 姉妹水入らずで仲良く食べればいいじゃないですか」

「悌誉姉は姉じゃがおぬしは余と悌誉姉の恩人じゃ。いずれ改めてこの前の礼をせねばならぬと思っておったしの!!」


 そう言って蒼天は悌誉のほうを見る。

 悌誉も頷いて、


「そうだな。それに、甘いものをごちそうする約束もあるだろう? そちらは蒼天が用意してくれたから、代わりに飲み物を用意するよ。いい和菓子はいいお茶と一緒に食べなければ意味がないだろう?」


 と優しい声で言った。

 そして悌誉は日本茶カフェ『千桜(せんおう)』で三人分の温かい高級玉露をテイクアウトしてきて、フードコートに戻ってきた。

 いざ水ようかんの包みを開くとなると蒼天はまだ周囲を警戒し、おそるおそる包み紙に手をかける。

 そうしてようやく開き終えると、中からは小豆色でありつつも瑞々しさで表面が宝石のように輝く水ようかんが姿を現した。


「これが……幻の『藤雀堂』の水ようかん。夢にまで見た……」

「見たんスか?」

「見たとも!!」


 何故か蒼天は力強く言う。そして手を震わせながら、付属していた木製のヘラでゆっくりとそれを切り分けていく。


「……ようかん一つでここまで感動出来るの、ある意味幸せッスよね」

「まあ、それは私も思うよ」


 蒼天の様子を二人は冷静に分析している。

 そして蒼天が切り分けたようかんが自分の前の皿に置かれた。

 三人は手を合わせて、ようかんを口に運ぶ。次の瞬間――三人の顔は幸福に満たされていた。


「これが……。美味じゃ、こんな旨いものがこの世にあったとは……」

「確かに、これは……今まで食べたようかんの中で一番美味しいと断言出来る」

「蕩けるような甘さ。それでいて甘すぎず、しかもゼリーみたいにするりと喉を通り抜けていく爽快感……。最高ッスね……」


 恍惚とした表情でようかんを味わって食べる三人は端から見れば奇異であるが本人たちはそんなことは気にならない。

 この甘味を堪能することより大事なことなど今この瞬間に置いてはないからだ。

 蒼天が切り分けたのは九切れ。つまり一人三切れである。三人はそれを、無言で、集中して食べた。

 そして食べ終えた時も、なくなってしまったと悲しむこともなく満足した顔をしている。


「はぁ……。もう、今日は食事はいらぬの」

「わかるよ」

「どうやったらこんなおいしいもの作れるんスかね?」


 余韻を味わいながら『千桜』の玉露を飲み、三人はまた暫し無言になった。

 そしてある程度落ち着いたところで悌誉はふと桧楯に聞いた。


「そう言えばヒタチちゃん。その、言いたくないならいいんだが……君のあの力は、何なんだ?」

「ああ、竜骨(りゅうこつ)唐楯(からたち)のことッスか?」

「ああ。そもそも、何で普通の高校生の君があんな物を持っている?」

「悌誉姉、その言葉そのまま余らに返ってくるぞ」


 蒼天が冷静にツッコむ。

 異能の力に関わっているという意味において、この三人の中に普通の女子高生はいない。


「何でって言われても、うちの家にあったからッスかね?」

「君の家……。そう言えば、名字を聞いてなかったな?」

「南茨木ッス」


 悌誉はその名字を聞いてある相手を思い出した。


「ああ、ということは君、南茨木の妹か」

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