表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
165/384

shopping mall“Girald”_2

 悌誉と桧楯が蒼天と合流する少し前のことだ。

 悌誉は蒼天の後をつけて『ヒラルダ』にやってきていた。

 前日の夜から蒼天は妙にそわそわしていて落ち着きがなかった。そして今朝、出かける時に、


「その、少し出かけてくる。別に何もないので心配したり気にしないでくれ悌誉姉」


 などとわざわざ早口で言ってそそくさと家を出たので不審に思ったのである。


(なんだ? 友達と遊びにいくみたいな感じではないだろうし……デートか?)


 そう考えはしたものの悌誉は今まで蒼天の口からそういう雰囲気を感じたことはおろか、芸能人やアニメのキャラクターなどでさえ、男が格好いいとかいう話を聞いたことがない。


(そもそもあいつの前世、男だしな。私よりもはっきりしっかり前世のこと覚えてるようだが……性自認とかどんな感じなんだ?)


 悌誉の場合は、前世が男性ではあるが前世のことをはっきりと覚えているわけではない。印象の強い出来事や人物が断片的に記憶にあるのだが、自分がかつて伍子胥(ごししょ)だったという感覚はあっても認識はない。性自認も普通に女性である。

 しかし蒼天は、この前の戦いの時の話を聞く限りかなりはっきりと前世の自分――楚の荘王であったという認識を持っているようである。

 聞くのもどうかと思うようなことだが、こんなことを考えていると悌誉は段々と気になってしまい、ついには悪いと思いながら蒼天の後をつけていたのである。

 そして『ヒラルダ』に着くと蒼天は落ち着きを取り戻していた。逆に悌誉はここまで来て、


(何をやってるんだ私は……)


 と思い、帰ろうかと考えた。

 蒼天の動揺の理由が気にならないと言えば嘘になる。しかし密偵のようにこそこそと尾行している自分がとても卑劣に思えてきたのだ。

 そうやって悩んでいる間に悌誉は蒼天を見失っていた。ならばもう大人しく家に帰ろうと思った時である。


「ヤスヨ……さん? ッスよね?」


 その後ろに桧楯がいた。


「お前は……確か、この前の戦いの時にいた楯持ちか。名前が……家電メーカーみたいな感じだったか?」

「……蒼天さんと同じ感想ッスね」

「ヒタチさん、だったかな?」


 悌誉は戦闘中に蒼天が叫んでいた名前を、記憶を手繰り寄せながら口にした。


「ここでつまんないボケかまさないあたりは蒼天さんと違いますね」

「……もしかしてあいつ、パナソニックとか東芝とか言ったのか?」


 桧楯はこくんと頷く。

 口に出さないだけで発想は似ているのだなと桧楯は思った。


「それで、ヤスヨさんは何されてるんですか?」

「そうだな。何をしているというわけでもないんだが……」


 直視して自分を見てくる桧楯を、悌誉は気まずそうな顔をして迎えた。


「だけど、ここで君に会えたのも何かの縁だろう」


 悌誉は腹を括ったように、真剣な顔をした。


「この前は……すまなかった」


 そう言って悌誉は、ショッピングモールの中だというなど気にせず桧楯に頭を下げる。

 この前とは無論、転生騒動の時の戦いのことである。精神的に追い詰められ、冷静さを失くしていたとはいえ悌誉は間違いなく桧楯を殺そうとしたのだ。

 そもそも謝って済むような話ではない。こうして先手を打って頭を下げること自体が打算的だとさえ思う。それでも悌誉は、何も言わずに有耶無耶にするということは出来なかった。

 真面目な顔で頭を下げている悌誉に桧楯は、


「べ、別にいいッスよ、そんなことしなくても。怒ってなんかないッスし……」

「それでも、だ。私は君を――」


 その悌誉の様子を見て桧楯は既視感を覚えた。

 真面目な人間が、本人にとってはとても重く捉えていることを真剣に謝っている。こうなると、謝られている当事者が簡単に許すとか気にしていないとか言ってもかえって相手は意固地になってしまうのだ。

 何故なら謝る側は――自分で自分を許せていない。

 こういう時はどうすればいいか。桧楯は少し考えて、


「じゃあ……なんか奢ってください」


 と言った。


「え?」


 予想外の詞が出たので悌誉は思わず間の抜けた声を出した。


「甘いものとか、ごちそうしてもらえたら水に流すッスよ。それでどうッスか?」

「そ、そんなことでいいのか?」

「はい。私、今すごく甘いものの舌なんスよね」


 そう言われて悌誉は、なんだかかえって気を遣わせてしまったような感じがしたが、それならばと桧楯と共にフードコートに向かうことにした。

 そこで――『藤雀堂』の紙袋を抱えて挙動不審になっている蒼天を見つけて声を掛けたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ