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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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juvenile delinquent

 次の日の朝、仁吉(ひとよし)は教室の自分の席で突っ伏して居眠りをしていた。

 時期は四月の末。今日は金曜日であり、明日から三連休だ。ゴールデンウィークも近く、そのこともあってクラス内の雰囲気はどこか浮わついている。

 しかし仁吉の表情はそんな気分とは無縁だった。


「なんだ南方(みなみかた)、朝からしんどそうだな。阪神負けたか?」

「……勝ったよ。僕は見てないけどね」


 仁吉に話しかけてきたのはクラスメイトの池田(いけだ)延利(のぶとし)だ。騎礼(きれい)を通じて知り合った相手であり、クラスが一緒になった今は仁吉ともたまに話をしている。


「そっか。じゃあなんだ? また崇禅寺に振り回されて疲れたか?」

「みんなして僕をあいつのなんだと思ってるんだよ?」

「んー……保護者?」


 とてもいい笑顔で延利は言った。

 仁吉は勘弁してくれもといった顔をしている。


「ま、そんなことはいいや。それよりさ。ちょっち相談乗ってくれない?」

「……内容によるな。僕は悪いが蔵碓のような何でも屋じゃないぞ」


 皮肉めいた口調で仁吉は言う。

 それに対して延利は違う違う、と手をぱたぱたとさせた。


「頼み事じゃないって。本当にただの相談。話聞いて思ったこと言ってくれればそれでいいんだって。崇禅寺のお守りしすぎて警戒心強くなってないか?」

「あー、それはまあ……あるかもな。悪い」


 実際、仁吉は相談があると言われた時に、どんな面倒ごとだろうかと考えてしまった。

 そのことに少しバツの悪そうな顔をしたが延利は特に気にする様子もなく笑っている。


「それで、相談って?」

「弟のことなんだけどさ。ここんとこなんか様子おかしくてさ」


 延利は腕を組みながら首をひねる。


「あー、えっと……二年の剣道部だっけ? 名前は……悪い、思い出せないな」

「まぁそんな話したこともないしな。広利(ひろとし)だよ。ま、つっても仲良くなんてないしな。あいつ、どうも俺のこと嫌いっぽいし」

「兄貴なんてそんなもんだろ。齢が近ければなおさらじゃないか?」

「ま、そりゃそうなんだがな。って、その口ぶりじゃお前は相変わらず妹さんから嫌われたままか」

「ああ。妹と弟じゃ少し違うのかもしれないが、むしろ異性のほうが仲なんて悪いんじゃないか? 兄貴のことが大好きな妹なんてライトノベルの中にしかいないんだよ」


 落ち着いた声で仁吉は言う。

 そこには何の含みもなく、ただ冷静な感想を述べただけだ。


「いやまあ、別にいたっていいとは思うけどさ。ま、でも基本的に中高生とかになると、なんつーか……自立したいなとか思う年頃だよな。それも、自分が家の中で一番年少だと余計に」

「うちの妹はそういうのとは違う気がするけれど……。ただただ嫌われてるだけだね。理由が何なのかはわからないし、そもそも理由なんてなく鬱陶しいだけなのかもしれないけれど」

「ま、俺のとこもおおむねそんな感じ。ただ俺の場合さ、一つしか変わらなくて男同士だから、なまじ気持ちをわかってやれるって考えになってしつこく構いすぎてるのはあるのかもしれないな。だから余計にうざがられるのかも」

「じゃあ放っておいてあげたらどうだい? というか――さっき言った様子がおかしいってどんな風になんだよ?」


 そう聞かれて延利はまた首をひねった。相談しようとはしたものの、いざ言葉にするとなると難しいらしい。


「あー……そのさ、うちの弟な。不良なんだよ」

「またストレートな表現だな。もう少し言い方なかったのか?」

「つっても本当にそんな感じだしな。成績はまあ平均くらいで運動神経はいいほうだが、喧嘩や夜遊びをよくやってさ。サボりも普通にあるし部活もそんな真面目に顔出してるわけじゃないっぽいんだ」

「いいじゃないか、それくらいのテンプレートな不良なら。喧嘩はあまりよろしくないが、ちゃんと進級はしたんだろ? そんなならたまに一言、犯罪はダメだぞとだけでも言っておけばいいんじゃないか?」


 相談した身でありながら延利は少し引いている。

 仁吉は真面目な顔で、大したことでもなさそうにこんなことを言ったからだ。

 そもそも普段の延利は、真面目すぎずかといって怠惰でもないという感じの生徒である。課題や授業は最低限やって試験前には勉強して平均点くらいを取るという感じである。学校外でもたまにゲームセンターやカラオケに行きはするがその程度で、あとはバイトか勉強をしているといった生活だ。

 対して仁吉は、対外的には真面目で勤勉な性格で通っている。そして厳格な生徒会長と親しくしているとあって、周囲からは仁吉もまた厳格と思われているのだ。

 しかし延利の意外そうな顔を見て仁吉はやはり顔色一つ変えず、


「なんだよその顔は? 僕はこういう感じだよ。じゃなきゃ騎礼と友達なんてやってるわけないじゃないか?」


 と言ってのけた。


「あー、まあそうか」


 二人の共通の友人。一番の不良である相川騎礼の名が出たことで延利は納得してしまった。

 騎礼もまた、夜遊び、サボり、喧嘩に女遊びとかなり自由奔放な生活をしている。広利との違いと言えば、要領がよくて成績は常に上位にいることくらいである。


「それで、不良な弟くんがどうしたんだよ?」

「うーんとさ、その……ここ数日、人が変わったみたいな気がしてさ」


 その言葉に仁吉は少し眉をひそめた。

キャラクタープロフィール更新しました。今日は「南千里悌誉」です。

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