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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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what's your soul name?_3

 八荒剣や船乗りシンドバッドについて泰伯に聞かれた犾治郎は、


「せやな。どれから話そか?」


 と少し考え込んだ。そして、


「まあ、まずはシンドバッドの話からしよか」


 と言った。


「とはいえ、ボクもあいつのことはよう知らん。これは嘘ちゃうで。あいつと最初に会ったんは、確か去年の秋くらいや。ボクはあいつと会う前から前世ゆうんをおおよそ認識しとって、宝珠も使えたからな。とは言え、別にそれで何するわけでもなく生きとったんやけど、そこにあいつが現れた」

「ああ、三国さん見たいなタイプ……って言ってわかるのかな君?」

「わかるで、大丈夫」


 そう言われて少しだけ、なんで分かるんだとは思った。

 しかしすぐに、蒼天が前世の自覚があると言ったのは通信札越しに犾治郎と話していた時だったと思い出す。


「で、シンドバッドは君に何を言ったんだい?」

「そこで聞いたのが八荒剣(はっこうけん)と不八徳のことや。曰く、悪行を成す八人の(えびす)を不八徳、それを撃つ八人の夷を八荒剣と呼ぶ、やて」


 要するに不八徳へのカウンターとなる存在のことが八荒剣らしい。泰伯の八荒剣に対する推測は当たっていた。

 そしてもう一つ――八荒剣もまた夷であるという考察もだ。


「なんで夷が夷を倒すんだよ? そういうの、覇者とかの役割のはずだろ?」


 古代中国では、夷――周辺諸民族からの侵攻を退ける国家間同盟の盟主のことを覇者と呼んだ。

 なので泰伯は、不八徳の対となるのは覇者であるほうが自然だと考えたのである。


「そこはボクもわからんとこや。けど、自分が夷やて説明されて納得はしたで。ボクの前世なんて、お世辞にも覇者なんてもんと縁のある人間ちゃうかったからな」

「……君の前世って誰だよ?」

「えー……。ひ、み、つ」


 とても楽しそうに犾治郎は言った。またか、と泰伯は不審の目を向ける。


「……まあ、ある程度絞り込めはするけどさ」

「へー、せっかくやから聞こかな?」


 犾治郎の態度は、教え子の回答を待つ教師のようだった。その反応が少し癪だが、ともかく泰伯は自分の考えを口にする。


「君は悌誉さんに遠慮してるって言ってたよね。彼女の前世は伍子胥(ごししょ)だ。三国さんと悌誉さんは親しいらしいのに、君が名乗っても三国さんは反応しなかった。となると、悌誉さんと君が知り合いという可能性は低いと思う」

「まあせやね」

「ならどうして君は彼女に気を使うのか。この話の流れならそれは前世が関係してると考えるべきだろう。つまり君は、呉越の戦いが激化していた頃の呉、楚、越の関係者なんじゃないかい?」


 泰伯が差す、呉越の戦いの頃とはだいたい前五一五年から前四七三年まであたりである。

 悌誉の前世、伍子胥の君主が呉の君主として即位したのが前五一五年のことであり、呉が隣国の越に滅ぼされたのが前四七三年だ。


「まあ、無難な読みやね。けど別に遠慮してるからゆうて同時代とは限らんんちゃうか? 例えば劉邦が転生して同時代に楽毅(がっき)信陵君(しんりょうくん)の転生者と会ったかて遠慮するやろ?」

「それはそうかもしれないけど、君はそういうタイプじゃないだろ。偉人の思想や行動に学ぶ性格ではあるかもしれないけれど、生き様を敬うような感じはしないね。現実主義で合理的な感じだ」

「なんや、割と他人のこと見とるんやな泰伯クン?」


 犾治郎は少し意外そうな顔をした。


「心外だな。それに、そういうところはわかりやすいほうだぞ君は」


 そして泰伯の指摘には、何かに気づいたように、一瞬だけハッとしたような顔になった。


「なるほどな。そうか、それで――」


 泰伯には聞こえないような小ささで呟いて、先を促す。


「だからおそらく普通に関係者なんだろうなと。そしてずばり君は――なんじゃないかい?」


 そして泰伯の告げた名に犾治郎は、


「うん、当たりや」


 と頷いた。

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