infirmary
保健室に行くとそこにいたのは二人だけだった。
「おや、南方くんか。お客さんかと思ったんだけれどね」
一人は白衣を来た、癖毛が特徴的な痩せぎすの男性。保険医の花隈廻だ。
「花隈先生。保健室に来る生徒をお客さんと呼ぶのはやめてくださいといつも言っていますよね?」
それを窘めたのがもう一人の人物。黒の学ランを着た生徒。保健委員の副委員長、二年生の今津陵だ。
陵は書類作業をしていたが、仁吉のほうをちらりと見ると軽く会釈してからまた作業に取りかかった。
「他のみんなは?」
「今日は報告だけなので、話だけ聞いて帰りましたよ」
陵はさらりと言う。
「そうか。まあみんな、部活があるからね」
「ええ」
「今津くんはいいのかい? 弓道部のほうに行ってもいいんだよ?」
「今日は顧問の三宮先生は来られないので後で顔を出します」
「そうか」
そう言いながら仁吉は陵の横に座り、書類の半分を受けとる。内容は主に委員のメンバーからの報告や相談の確認、それと五月中旬にある体育祭に向けての救護班の編成や必要備品の確認などだ。
「そう言えば先輩、このあいだ弓道部に来たそうですね」
「ああうん、少し西向日くんに話があってね」
「変な夢の話、でしたか? 先輩がそういうものに興味があったのは以外でしたよ」
「気になったものだからつい、ね。今津くんはそういうの見たりするかい?」
「……特には。先輩は何か見たんですか?」
「いやまったく」
二人は書類を片付けながら淡々と話している。その横では廻がお茶を淹れ、クッキーとチョコレートを出してくれた。
二人はそれをつまみながら相変わらず雑談と書類を平行させている。
「弓道部のほうは最近どうだい?」
「これといって話すようなこともありませんよ。いつも通りです。元々、俺はそうやる気があって入ったわけではありませんしね」
「そうなのかい?」
「姉が部活くらいやれとしつこいので。俺の学生生活なんですからどう過ごしても勝手だと思いませんか?」
「まあね。けど、確かに綰さんなら言いそうだ」
「何の因果であんな騒々しいだけのガサツな姉を持つことになったんでしょうね」
「まあそういうことを言うのはやめなよ。彼女は彼女なりに君のことを気に掛けてるんだろうさ」
「では想像して見てください。あの姉が、学校での喧しさそのままで家にいてこちらに干渉してくるんですよ。嫌気が差しませんか?」
「……そんなこと、ないと思うけれど?」
「少し言葉に詰まりましたよね」
「あーうん、ごめん。でも、君を気に掛けてるのは本当さ。たまに会うと委員会での君の様子とか聞かれるからね」
「……何かおかしなこと話してませんよね?」
「おかしなことも何もないからね。今津くんにはいつも助けてもらってるよって」
「そうですか」
二人ともほとんど表情の変化はなく、端から見れば無愛想な二人が話しているようにしか見えない。
しかし保健委員会で二人が並ぶといつもこのような感じであり、廻はお茶を飲みながら微笑ましそうにその光景を眺めていた。