bad friend_3
「おーす仁吉、大丈夫じゃねーな」
放課後、保健委員会の集まりで保健室に向かう途中の仁吉は騎礼に声を掛けられた。
騎礼は目に見えて疲れた表情の仁吉を見て楽しげに笑っている。
「大丈夫じゃないんだよ。色々あって割と今、自分の許容量越えてる気がする」
「へー。んでお前、どこ行くんだ? 帰りじゃなさそうだけどよ」
「……委員会」
「よくそれで会長に仕事増やすなとか言えるよな」
そう言いながら、しかし騎礼はそれを責めるような様子はない。しかし言われた仁吉は目を細めた。
「……わかってるよ、そんなことは」
仁吉にも自覚はある。しかしだからといって行かないという選択肢はない。
そして騎礼にも特に止めようというつもりはなかった。
「ま、ほどほどにな。お前は昔からずっと、自分のキャパわかってねーからな」
「なんでお前は時々そう、変に含みのある言い回しをするんだよ?」
その問いに騎礼は、
「ま、性格だよ。お前はいいダチだが別に優しくしてやろうとは思わないからな。俺が優しくすんのは女の子だけだよ」
「知ってるよ」
この開き直りはいっそ清々しいと仁吉は思う。
「お前が美少女だったら口説いて甘やかしてやってもよかったんだがな」
「……やめてくれ、気色の悪い」
「そうだな。俺も言っててサブイボ出そうだったぜ」
「お前がそんなことを言い出すってことは、今は彼女いないんだな?」
これまでの経験則で仁吉はなんとなく察した。
騎礼が仁吉に絡んでくる時は、大抵が暇潰しか彼女の話をしたい時なのだ。
「いねーな。つーか、今は別にいいかなって。それよりお前のほうはどうなんだよ、なんかいい相手いねえの?」
「……前もしたぞ。ないね」
その言葉に騎礼は残念そうな顔をした。
「んだよつまんねえな。刺してくる美人ともなんもなしかよ?」
その言葉に仁吉は思わず息を呑み、そして騎礼を睨む。
「そういう言葉、頼むから暫く出さないでくれ」
前に騎礼に話した時には、厳密にはこういう言い方ではなかったのだがそれは信姫を指して言ったことだった。
しかし今聞くとどうしても仁吉は凰琦丸に殺されかけた時のトラウマを連想してしまう。
「お、おう? なんだよマジで刺されたのか?」
仁吉の雰囲気が変わったのを感じ取ったらしく、騎礼はそれまでの茶化すような口調をやめた。
「――騎礼」
仁吉の口調は、それこそ人を殺しそうなほどにひどく低いものだった。
「わかったわかった、悪かったな。んじゃ委員会頑張れよ」
「……ああ、ありがとう」
そして仁吉は保健室へと向かった。