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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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daily life of four_4

 同日。昼休み。

 泰伯(やすたけ)は机に突っ伏して項垂れていた。午前中の授業中も起きてこそいたものの、半ば呆然としており教師に当てられても虚ろな返事をしてしまいかえって心配されるという有り様である。


「……泰伯、ほんとどしたの?」


 彷徨(かなた)は泰伯の頭を人差し指で軽くつつきながら聞く。その手には購買の菓子パンが三つとコーヒー牛乳が入った袋がある。彷徨なりの泰伯への差し入れのつもりらしい。


「昨日は珍しく休んだからな。それで少しは回復したことを祈っていたのだが」

「むしろ――悪化してますよねこれ? サボって鍛練でもしてたんですか?」


 日輪(ひのわ)孝直(たかなお)も真面目に泰伯の身を案じている。

 日輪の手には「健康第一」の御守りが握られており、孝直はカップラーメンを鞄から取り出していた。


「だ、大丈夫……。英語で言うとモーマンタイ、チャイニーズならノープロブレム……」

「……逆じゃない?」

「逆ですね」

「――ギャグのつもりだろうか?」


 彷徨、孝直は冷静で、そして泰伯の大丈夫を信用していない。日輪の反応はどこかズレているのだが、泰伯はそれに何かを返す気力もない。

 しかしこの三人には知る由もないことなのだが、先日の泰伯の奮闘を考えれば無理からぬことである。

 昨日一日で何度も死にかけ、その上で限界を超えて戦っていたのだ。むしろこの様とはいえ登校出来ているだけでも偉業と言ってよい。


「とりあえずほら泰伯、ご飯食べよ。甘いもの大量に取ろう。手を動かすのしんどいなら食べさせてあげるからさ」

「泰伯さんが食べたがってたプレミアムヌードルDXもありますよ。お湯を入れて三分待てばラーメン好きは天国が見れると評判のやつです」


 彷徨と孝直はそう言って菓子パンの袋を開いたりお湯を注いだりしている。孝直はわざわざ泰伯の近くでお湯を注ぎ、その匂いがほんのりと香るようにカップを泰伯の顔の近くにもっていった。


(菓子パンとカップラーメンの食べ合わせというのはどうなのだろうか?)


 日輪はそう思ったが二人とも泰伯のことを案じての行動なので口に出しはしなかった。

 相変わらず泰伯は起きなかったが、お湯を注いで二分三十秒ほど経った時である。

 教室の扉ががらりと開いた。出入りがあること自体は何もおかしなことではないのだが、扉を開けた人物は入ってくることなくそこに立って、突っ伏している泰伯に声をかけた。


「おい、あー……茨木。ちょっと顔貸せ」


 その声を聞いた瞬間、それまで海岸に流れ着いたクラゲのように覇気の無かった泰伯は飛び起き、満面の笑みを顔に浮かべた。


「南方先輩!! どうしたんですか?」


 その反応に、呼び掛けた生徒――南方(みなみかた)仁吉(ひとよし)は明後日のほうを見上げながら頬をひきつらせている。

 仁吉は泰伯の言葉には返事をせず、その横にいる彷徨たちのほうを見た。


「悪いけれど、少し彼を借りてもいいかな? ……副会長に少し、相だ…………用事があってね」

「べ、別にいいですけど」


 彷徨は仁吉の表情を不思議に思いながらもそう言った。


「こいつはどうも、今日は疲れているようなのであまり無理はさせないように願いたいのですが」


 日輪は泰伯を案じてそう言った。しかし泰伯のほうが日輪を制して、


「大丈夫だよ、僕は。だから先輩もお気になさらず」


 と言った。そして孝直が作っていたカップラーメンを掴み、ものすごい速さで食べると彷徨の持っていた菓子パンとコーヒー牛乳を手に取った。


「ごちそうさま、孝直。彷徨、これもらっていっていいかい? 今度何か奢るからさ」

「そりゃいいけど……。もともと、泰伯用に買ってきたやつだし」


 泰伯のあまりの変貌ぶりに彷徨は気圧されていた。


「おまたせしました南方先輩。じゃあ行きましょう」


 そう言うと仁吉の手を掴んで教室の外へ出ていった。呼びに来たのは仁吉なのだが仁吉の顔はとても鬱屈としており、泰伯のほうが上機嫌である。

 残された彷徨たちはそれを呆然と眺めていた。


「……あれ、何?」

「保健委員長の南方先輩、ですよね?」


 彷徨と孝直は困惑したまま二人が出ていった扉のところを、目を点にして見つめている。


「仲が良いとか親しくしているという話は聞いたことがない気がするのだが」

「私も聞いたことありませんね。というか生徒会長と体育委員長のインパクトが強すぎてあんまり保健委員長の印象ってないんですよ」

「それでも顔と名前でわかるあたりが孝直は流石だよね」


 三人でそんなことを話している最中、彷徨がポツリと言った。


「……あの二人、付き合ってたりして?」


 普段であれば茶化すようにこういうことを言う彷徨が妙に真に迫った顔をしており、そして先ほどの泰伯の反応が、年上の恋人が呼びに来てくれたような、という表現でもあまり違和感がないので、二人はそれを冗談めかして否定することが出来なかった。


「ま、まあいいのではないか? 今はその、多様性の時代だしな」

「そう、ですね。ええ、茨木さんにだって誰を好きでいても、どんな恋人がいても何も悪いことではないですから」

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