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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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fool climbs tree_3

 蒼天の言葉の意味がツインテールの女子高生にはわからなかった。

 察しの悪いやつめと思いながら蒼天は言葉を続ける。


「じゃから、余がおぬしを助けてやる見返りはなんじゃと聞いておる。余とおぬしは他人じゃからの。本来、こうして足を止めてやる義理さえない」

「そ、それはそうなのだけれど……」

「ただで助けてもらいたければ119にでも掛けてはしご車でも呼ぶがよい。携帯くらいあるであろう?」


 蒼天の口調は冷ややかだ。

 いや、こうして話を聞いているだけ今の自分は優しいほうだと思っている。


「というか、知人を呼んで梯子でも持ってきてもらえばどうじゃ?」

「そ、それが……スマホ、さっき落としちゃってさ」


 そう言ってツインテールの女子高生は下のほうを指差す。そこには液晶画面がバキバキにひび割れたスマートフォンの残骸があった。


「木の下や、スマートフォンが夢の跡……」

「つまんないボケやってないでよ!!」

「つまらんことの一つや二つも言いたくなるというものじゃ。で、何をしてくれるのじゃ?」

「……と、藤雀堂(とうじゃくどう)の水ようかんでどうかしら?」


 その言葉を聞いた途端、蒼天の目が輝いた。


「なんじゃと? あれは確か一日に十個しか販売されず、開店から五分と経たずに店頭から消える幻のようかんと聞いておるが!?」

「お父さんが藤雀堂の店主さんと知り合いでね。流石に今日は無理だけれど今週中にならば用意出来るはずだわ!!」


 その言葉を聞いて蒼天は喜びのあまり指をパチンと鳴らしていた。


「決まりじゃ、約束を違えるでないぞ。その時は深夜のうちからおぬしの体を店の前に縛りつけてでも買わせてやるからの」

「だ、大丈夫だから早く助けてーっ!! もう、足に力が入らなくなってきたんだけど!!」


 彼女は高いところが駄目と言っていた。いよいよ恐怖に耐えきれなくなったのだろう。


「うむ、では暫し目を瞑っておれようかん娘」

「え、は……。嫌よ、だって怖いじゃない!!」

「余を信じよ。余はおぬしのことなどぶっちゃけどうでもいいがおぬしからようかんを円滑に横流してもらうため、おぬしには傷一つつけぬとも!!」


 いっそ清々しいほどに蒼天の頭にはようかんのことしかなかった。


「嘘でも少しくらい心配してよ!!」

「何を言っとる、余はこんなにも心配しておるではないか!?」

「ようかんじゃなくて私の心配よーッ!!」

「なんじゃ、面倒くさい奴じゃの。わかったわかった。心配してやる故にとっとと目を瞑れ。何――一瞬で終わる」

「わ、わかったわよ……」


 そう言ってツインテールの女子高生はおそるおそる目を閉じた。

 それを確認すると蒼天は木に向かって駆け出した。そして枝を蹴って木を垂直に駆け登ると、そのまま彼女を抱きかかえて地面へ飛び降りる。

 次に彼女が目を開いた時、彼女は蒼天に抱えられて地面に降りていた。


「ほれ、これでよかろう」

「……どうやったの? そんなちっさな体で?」


 ツインテールの女子高生は目を丸くしている。

 彼女の背は蒼天よりも少し高い。なのに蒼天は彼女を軽々と抱き上げていた。そもそも、人間一人を抱えて木の上から飛び降りるなどどう考えても人間技ではない。


「ちっさいは余計じゃ。それよりも約束は守るんじゃぞ?」

「そ、それはもちろん。それと……ありがとう」


 素直にお礼を言われて、蒼天は少しだけ照れくさそうにそっぽを向いた。


「……まあよい。すべてはようかんのためじゃ」


 そう誤魔化しながら蒼天は、何かを忘れているような気がした。

 今の人間離れした軽業は無論、傀骸装による身体強化の賜物なのだが――何故蒼天は、敵が出たわけでもない朝の通学路で換装していたのか。

 そう考えたところで蒼天は、我に帰って聞いた。


「……今、何時何分じゃ?」

「……さあ? スマホ、壊れたって言ったじゃない。自分の見なさいよ」

「余はそんなもの持っておらぬ。が……確か余は、遅刻しそうになって走っとったんじゃよな」


 二人は顔を見合わせる。

 そして学校のほうへ向かって全速力で走り出した。

 傀骸装で向上した身体能力を駆使すれば蒼天だけならばまだ余裕で間に合う。隣のツインテールの少女を抱えて走っても余裕だろう。

 しかしそれはあまりにも悪目立ちし過ぎる。目立つことは嫌いではないが、傀骸装や宝珠のことがバレるのはまずい。それくらいの良識は蒼天にもある。

 よって二人は全速力で学校まで走らざるを得なくなってしまった。

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