fool climbs tree_2
少し時間を戻す。
朝、蒼天は起きると目を擦って時計を見て――絶句した。
普段の起床時間よりも遅い。普通に家を出ては遅刻の時間である。
なおその横では悌誉が泥のように眠っていた。
「起きよ、起きよーっ悌誉姉!! このままだと二人して遅刻じゃぞーっ!!」
蒼天に体を揺さぶられて悌誉も目を覚ます。まだ頭が働いていないようだが、時計を目の前に差し出されてカッと目を見開いた。
「……嘘だろ?」
「夢ならどれだけよかったことか!! とりあえず余は先に出るぞ!! サボって翌日遅刻というのは流石に嫌じゃ!!」
そう言うと蒼天は寝癖だけをさっさと直してセーラー服に着替える。
「……別に、お前の担任って琥珀ちゃんだろ? あの人ならそれくらいで何にも言わないぞ」
「余が気にするのじゃ!! では出るゆえ、戸締まり頼んだ!!」
そして蒼天は嵐のような勢いで家を飛び出た。
しかし今の時間だと、蒼天の体力ならば全速で走っても遅刻する可能性が高い。
(ええい、こうなれば最後の手段じゃ!!)
蒼天はポケットから宝珠を取り出して、体だけを換装する。運動音痴の蒼天だが換装――傀骸装を使えば身体能力、運動神経ともに向上する。
これならば遅刻は免れる。
そう思ったのだが――。
その時蒼天は珍妙なものを目にした。
女子高生がいる。服装は白のセーラー服の上から赤のトレンチコートで、四月も半ばの今ならば少し暑そうではあるが、取り立てて変ということもない。
猫を抱き抱えている。まだ、少し変わった風景、くらいだ。
しかしその、猫を抱いたツインテールの女子高生は何故か木の上にいた。そして何かを訴えかけるような目で蒼天を見つめている。
「あー……うむ、降りる時は気をつけての」
そう言って蒼天は走り去ろうとした。
しかし女子高生は大声で呼び止める。
「ちょま、待って!! この子を助けようとして登ったら降りれなくなったのよ助けてくれないーっ!?」
「……おぬし、アホなの?」
木の高さはちょっとした電柱くらいの高さはある。下のほうからいくつも枝分かれしており、登るのはそう難しくなさそうだった。
「登ったのじゃから降りれるじゃろ?」
「だ、だって……怖いじゃない?」
ツインテールの女子高生は声を震わせて言った。
「もう一度言うがの……おぬし、アホなの?」
「に、二回も言うことないじゃないーっ!!」
「ふむそうか。……おぬし、アホなの?」
「三回言えってことでもないわよ!!」
「じゃあ何回言えばよいのじゃ面倒くさいのう」
「回数増やさなくていいから助け……」
木の上と下でそんなやりとりをしていた時、ツインテールの女子高生の腕から猫がするりと抜け出した。猫はそのまま枝と枝を忍者のような俊敏な動きで跳び移りあっさりと木から降りてきた。
「…………」
「…………」
二人はその様子を無言で見つめていた。
「……よかったの。おぬしの本願は果たされたぞ?」
「……そ、そうね。よかったわ」
「では余はこれで!!」
今度こそ蒼天は走り去ろうとした。
しかしツインテールの女子高生は再び叫ぶ。
「私は!?」
「なんじゃ、抱えておったものがいなくなったのじゃから降りてこれるじゃろ?」
「その、あの……私、高いところダメなの。手足が震えて、まともに降りれそうになくて」
「このあほたわけーッッ!!」
蒼天、渾身の叫びである。
「わかってるわよーっ!! お願いします助けてーっ!!」
「はぁ、仕方ないの。それで――いくらじゃ?」
蒼天は前髪をかき上げながら聞いた。




