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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue4“inside my core”
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fool climbs tree

「よっちゃん遅いねー」

「二日連続サボるか普通?」


 同じ朝、玲阿と忠江は教室で蒼天の席を眺めていた。もうあと五分でホームルームが始まる時間なのだが、蒼天はまだ登校してきていない。

 二人とも蒼天のことを心配しているのだが、いかんせん蒼天は携帯電話を持っていないので連絡の取りようがない。一応、玲阿は蒼天の家――悌誉と暮らしているアパートの場所と部屋番号を知っているので、今日も来ないようならば訪ねてみようと思っていた。

 ぼんやりと待つのに飽きたのか忠江は蒼天の机の上でトランプタワーを作り始めた。

 その時、玲阿は思い出したことがあったので忠江に言う。


「そう言えば昨日の……ええと、辞典占いだったっけ?」

「ああうん、漢和辞典占いね」

「お兄ちゃんに聞いてみようと思ったんだけど……。その、昨日はお兄ちゃん、帰ってくるなりバタンキューしちゃってさ。今日でもいい?」

「全然オッケーだよ。てかさ、昨日はその夢見なかったんだよねー。うーむ、なんだったんだアレ?」


 軽い口調で話しながら、その視線はとても真剣にトランプに向けられている。なんとなく玲阿は話しかけてはいけないような気がした。


「ところでレアチってさー」

「ど、どうしたの忠江ちゃん?」


 しかし忠江はそんな玲阿の気遣いなどどこ吹く風で、普段通りに会話をしてくる。

 それでいて眼差しと手は真剣そのものなのだから、器用だなぁと玲阿は感心してしまった。


「しーちゃん知ってる?」

「……誰?」

「ほら、二組の……あれ、苗字なんだっけ?」

「自分で話振ってはてなマーク出さないでよ」

「えっとね、なんだっけ? 確か最初につけようとしたあだ名が……ミッカーだった気がするんだよね」

「それでわかるわけないじゃん!!」


 忠江は他人を呼ぶとき、とりあえず聞いた名前の印象からあだ名をつけて呼ぶ癖がある。しかし、一番最初につけたあだ名はたいてい定着しないのだ。

 少なくとも玲阿と蒼天については、忠江は自分で「ラッキー」「ミック」とつけたくせに五分後には今の呼び方に変わっていた。命名の理由は茨木だからラッキー、三国だからミック、だったらしいのだが、苗字で呼び合うなんてよそよそしいからということである。


「それで、そのミッカーさん? しーちゃんさん? がどうかしたの?」

「レアチのファンなんだってさ。走ってる姿が恰好よかったって言ってたよ」

「そ、そうなんだ。それは嬉しいんだけど……誰なの?」


 忠江の話は全体的に漠然としたところが多すぎて、玲阿はどう返していいか迷ってしまった。

 その時である。

 どたどたと凄まじい音が響いたかと思うと、教室の扉が勢いよく開け放たれて、蒼天と、玲阿の知らないポニーテールの生徒が教室になだれ込んできた。


「ぎ、ぎりぎりセーフじゃの」

「……あ、アナタのせいでしょう? あの時アナタが……」

「うるさい、終わった話を掘り返すでない。だいたいそれを言うならばそもそもおぬしが――!!」


 二人は膝に手をついて息せき切らしながら文句を言い合っている。

 忠江はその、ポニーテールの少女のほうを指して言った。


「あれがしーちゃん」

「……うちのクラスに、あんな子いたっけ?」

「うんにゃ。二組って言ったじゃん?」


 玲阿たちのクラスは一組である。

 玲阿がそれを疑問に思っていると、予鈴が鳴り響き一組の担任である岡町琥珀が入ってきた。琥珀は蒼天の横の少女を見るなり、


「なんだ詩季(しき)じゃないか? お前のクラスはこっちじゃないだろ」


 と言った。

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